メル・アン・エディール - 飛空艦と少女 -
3章:ゴットヘイル襲撃 - 4 -
ウルファンは驚愕の表情を浮かべて、大きく目を見開いた。
成功した。離せと言わんばかりに腕を振ると、今度はあっけなく手を離す。飛鳥は俊敏な動きでタラップを駆け下り、一目散にリオンの傍に駆け寄った。
「リオンッ!」
『アスカッ、****!!』
“逃げろ! 最上甲板に艦長がいる!”
飛鳥は泣きそうな顔でリオンを見下ろした。
彼を置いていけない。それに今のウルファンに、飛鳥を傷つけることは出来ないはずだ。
ウルファン。確か、クリークダウン空賊団の船長の名前だ。ゴットヘイルでルーシー達と戦っているのではなかったか。なぜ艦内に侵入しているのか。
この艦に今、何が起きているのだろう――。
『アスカ……』
ウルファンは呆然と、タラップから飛鳥を見つめている。
兵士に扮したウルファンの手下達は、様子の可笑しいリーダーに何やら喚 いているが、男には聞こえていないようだ。
金緑に光る瞳は、もはや飛鳥しか映していない。
“アスカが欲しい……”
ウルファンの心を読んで、飛鳥は震え上がった。
男は、獲物を狙う猛禽のような視線でひたと飛鳥を見据え、ゆっくり近付いてくる……。
リオンは血に濡れた手で銃を構えると、躊躇わず引き金を引いた。
パンッと強烈な発砲音が鳴り、ウルファンの腹に命中する。しかし、近接を止めるには至らない。全く怯まずに歩いてくる。
「リオン、逃げようっ!?」
飛鳥は叫んだ。リオンの肩を支えて起こそうとすると、リオンも苦痛の声を上げながら、どうにか立ち上ろうとする。
ウルファンはリオンに銃口を向ける――飛鳥は咄嗟に、両手を広げてリオンの前に立ちはだかった。
「撃たないでっ!!」
『*****!!』
“危ないっ”
リオンに肩を掴まれたが、頑として動かなかった。今の飛鳥を、あの男が撃てないことは判っている。
ところがウルファンは、表情を変えずに銃口を飛鳥に向けたまま発砲した。
きつく目を瞑って肩を竦めたが、弾丸は飛鳥の顔の横をすり抜け、後ろに立つリオンの右肩に命中した。
『ぐっ……』
鈍い苦痛の呻き声。
「リオンッ!!」
次いで悲痛な飛鳥の悲鳴が格納庫に響く。リオンは苦悶の表情を浮かべて、その場に頽 れた。
傾 ぐ身体を咄嗟に支えると、光が失われつつある青い瞳は、ぼんやりと飛鳥を見上げる。
『アスカ、*****……』
“逃げて……”
リオンの身体から力が抜けていく。
「リオンッ!」
必死に周囲の気配を探った。思考を感知する領域を網目のように広げ、何度も触れてきた、清廉とした思考を探す。
“――……ゲートを開けたのは誰だ? 内通者がいる。探せ”
見つけた。
ルーシーの思考は、どんどん明瞭化していく。ここ、屋内格納庫に近付いているのだ。
“無謀にも程がある。鹵獲 が目的か?”
ルーシーの傍に、猜疑心に満ちた思考の持ち主がいる。馴染のある思考だ。カミュに違いない。
“違う。目的はアスカだ”
“同じことだ。あまり、情を移すな。アスカは古代神器――太古の兵器だ”
ルーシーの返答に、カミュは苦言を呈した。カミュの言葉は、飛鳥を茫然自失させた。
飛鳥は“兵器”。
人である自信を失くしかけていたが、改めて人から指摘されると、思った以上に強烈だ。
衝撃を受けている場合では……そうは思っても、身体に力が入らない。よろよろと床に座り、リオンの頭を抱えた。
ウルファンは巨躯を二つに折り曲げて、静かな動作で飛鳥の前に跪く。
『アスカ、*******』
“来てくれ”
大きな手が、飛鳥に向かって伸ばされる。
「来ないで……」
飛鳥はリオンをぎゅっと抱きしめ、首を左右に振った。
『*****、**********……』
“叩いて悪かった……。頼む、来てくれ……”
飛鳥が一向に首を縦に振らないと判ると、ウルファンは仕方がない、というように飛鳥の脇に手を挿し込み、強引に持ち上げようとした。
成功した。離せと言わんばかりに腕を振ると、今度はあっけなく手を離す。飛鳥は俊敏な動きでタラップを駆け下り、一目散にリオンの傍に駆け寄った。
「リオンッ!」
『アスカッ、****!!』
“逃げろ! 最上甲板に艦長がいる!”
飛鳥は泣きそうな顔でリオンを見下ろした。
彼を置いていけない。それに今のウルファンに、飛鳥を傷つけることは出来ないはずだ。
ウルファン。確か、クリークダウン空賊団の船長の名前だ。ゴットヘイルでルーシー達と戦っているのではなかったか。なぜ艦内に侵入しているのか。
この艦に今、何が起きているのだろう――。
『アスカ……』
ウルファンは呆然と、タラップから飛鳥を見つめている。
兵士に扮したウルファンの手下達は、様子の可笑しいリーダーに何やら
金緑に光る瞳は、もはや飛鳥しか映していない。
“アスカが欲しい……”
ウルファンの心を読んで、飛鳥は震え上がった。
男は、獲物を狙う猛禽のような視線でひたと飛鳥を見据え、ゆっくり近付いてくる……。
リオンは血に濡れた手で銃を構えると、躊躇わず引き金を引いた。
パンッと強烈な発砲音が鳴り、ウルファンの腹に命中する。しかし、近接を止めるには至らない。全く怯まずに歩いてくる。
「リオン、逃げようっ!?」
飛鳥は叫んだ。リオンの肩を支えて起こそうとすると、リオンも苦痛の声を上げながら、どうにか立ち上ろうとする。
ウルファンはリオンに銃口を向ける――飛鳥は咄嗟に、両手を広げてリオンの前に立ちはだかった。
「撃たないでっ!!」
『*****!!』
“危ないっ”
リオンに肩を掴まれたが、頑として動かなかった。今の飛鳥を、あの男が撃てないことは判っている。
ところがウルファンは、表情を変えずに銃口を飛鳥に向けたまま発砲した。
きつく目を瞑って肩を竦めたが、弾丸は飛鳥の顔の横をすり抜け、後ろに立つリオンの右肩に命中した。
『ぐっ……』
鈍い苦痛の呻き声。
「リオンッ!!」
次いで悲痛な飛鳥の悲鳴が格納庫に響く。リオンは苦悶の表情を浮かべて、その場に
『アスカ、*****……』
“逃げて……”
リオンの身体から力が抜けていく。
「リオンッ!」
必死に周囲の気配を探った。思考を感知する領域を網目のように広げ、何度も触れてきた、清廉とした思考を探す。
“――……ゲートを開けたのは誰だ? 内通者がいる。探せ”
見つけた。
ルーシーの思考は、どんどん明瞭化していく。ここ、屋内格納庫に近付いているのだ。
“無謀にも程がある。
ルーシーの傍に、猜疑心に満ちた思考の持ち主がいる。馴染のある思考だ。カミュに違いない。
“違う。目的はアスカだ”
“同じことだ。あまり、情を移すな。アスカは古代神器――太古の兵器だ”
ルーシーの返答に、カミュは苦言を呈した。カミュの言葉は、飛鳥を茫然自失させた。
飛鳥は“兵器”。
人である自信を失くしかけていたが、改めて人から指摘されると、思った以上に強烈だ。
衝撃を受けている場合では……そうは思っても、身体に力が入らない。よろよろと床に座り、リオンの頭を抱えた。
ウルファンは巨躯を二つに折り曲げて、静かな動作で飛鳥の前に跪く。
『アスカ、*******』
“来てくれ”
大きな手が、飛鳥に向かって伸ばされる。
「来ないで……」
飛鳥はリオンをぎゅっと抱きしめ、首を左右に振った。
『*****、**********……』
“叩いて悪かった……。頼む、来てくれ……”
飛鳥が一向に首を縦に振らないと判ると、ウルファンは仕方がない、というように飛鳥の脇に手を挿し込み、強引に持ち上げようとした。