ラージアンの君とキス

3章:宇宙戦争 - 14 -

 バルカナス達は次から次へと襲って来た。
 戦闘は激化し、天まで覆う砂塵さじんは、彼の姿を完全に覆ってしまった。通らない視界の向こうから、耳を塞ぎたくなる恐ろしい爆音、断末魔、咆哮が聞こえてくる。
 一体、どれだけの相手と戦っているのか、検討もつかない。

 ――シュナイゼル……。

 泣きそうになりながら見守っていると、ようやく轟音は治まった。
 立ち昇る炎と、砂埃の奥から、傷一つついていないシュナイゼルが姿を見せる。安堵のあまり、身体中から力が抜けた。

「夏樹」

「シュナイゼル……!」

 ――良かったぁ……無事で良かったぁ……。

「今のうちに、ゲートへ急ごう」

 半べそでシュナイゼルを見上げていたが、手を差し伸べられて、慌てて立ち上った。そのまま片腕で抱き上げられる。夏樹も首にしっかり腕を回すと、万が一にも落とされないよう身体を固定した。

「大丈夫だ、すぐに着く」

「うん」

 砂塵が治まり戦闘の跡地を見下ろすと、眼下におびただしい数のバルカナスが倒れていた。

「全部……、シュナイゼルがやったの?」

「そうだ」

 ラージアンがいかに強いか、改めて思い知らされた気がした。あれだけ強そうな相手を、本当に殲滅してしまったというのか――。

「私一人だったら、即死だったね……」

「君を守ると約束した」

「……」

 ”君を守る”。たった一言が、シュナイゼルが口にした途端、とてつもない重みを持つ。
 シュナイゼルは決して嘘をつかない。
 こんな、どことも判らない果ての大地まで、夏樹を追いかけて来てくれた。敵地に乗り込んで助けに来てくれた。

 ――かっこよすぎるよ……。

 シュナイゼルは初めて会った時に交わした約束を、違えることなく守ってくれている。彼のことだけは、何があっても信じられる。

「――バルカナス達の要塞都市だ」

 はっとして顔を上げた。
 この惑星も、ラージアン同様に非常に発達した科学を有しているようだ。
 眼下に見下ろす鈍色の要塞都市は、とても整然としていて、宙に浮かぶ貨物船がレールもなしに行き来している。巨大なバルカナス達が暮らすだけあり、何もかもが大きい。
 シュナイゼルはぐんぐん上昇して、一際高くそびえる鉄塔を目指した。

「あの天辺にゲートはある」

 天まで届きそうな巨大な鉄塔に近づくと、またしてもバルカナス達が襲ってきた。今度は空に浮かぶバイクのような乗り物に乗っている。

「またっ!?」

「片付ける。離れないように」

「うんっ」

 落ちたら即死だ。首に回した腕にぎゅっと力を込めると、宥めるように背中を叩かれた。

「――すぐに終わる」

 大気を揺らして、鋼鉄の弾丸が無数に出現する。シュナイゼルの力だ。
 四方から攻めて来るバルカナスに、弾丸は高速で食らいついた。彼等がいくら振り切ろうとしても、複雑な軌道を描いて、弾は必ず命中した。
 寸分狂わず敵を殲滅していく光景は、現実離れしていて、どこか芸術的ですらある。

 ――すごい……、シュナイゼルは、本当に強い。

 シュナイゼルは、襲いかかる敵をかたっぱしから吹き飛ばした。
 大気を揺るがす衝撃波が起こる。
 シュナイゼルと夏樹の周りの空気は、屑鉄が火を噴くように真っ赤に燃え上がった。見えないシールドがなければ、夏樹は跡形もなく蒸発していただろう。

「もう邪魔はいない」

 鉄と硝煙の匂いが充満する中、シュナイゼルはついに鉄塔の屋上に夏樹を降ろした。探るように真上をじっと見上げて動かない。
 傍目には判らないが、母艦マザーシップと交信しているのかもしれない。
 間もなく、見上げる夜空の一部に、細かい骨組みが浮き上がって見えた。
 空を覆う巨大なパネルの一部が、左右に割れて口を開く。その向こうに、本物の空が見えた。あそこから脱出するのだろう――。

「同胞が局部的に防壁を無効化してくれた。今から十分間、脱出可能だ。すぐに機体が送られてくる」

 シュナイゼルの言葉通り、空から青く発光する戦闘機が音もなく降りてきた。
 ラージアンの仲間が迎えに来てくれたのだ。