ラージアンの君とキス

3章:宇宙戦争 - 3 -

 ディーヴァのにやついた顔を見ていたら、何だかムカムカしてきた。彼女のこういうところは、すごく意地悪だ。白くてまろい頬を左右に引っ張ってやった。

「わーん! 何するの!」

 いつの間にか傍にカーツェが立っていて、夏樹の腕を取ろうとした。
 ディーヴァは途端に冷めた表情を浮かべて、カーツェを睨み上げる。そして、いかにも女王様といった口調で、

「夏樹に触るな」

 ……冷たく言い捨てた。
 カーツェが大人しく引き下がり、操縦席に戻る姿を見届けた途端、夏樹の鼓動はドッドッドッ……と激しく音を立て始めた。

「今、殺されるところだったね」

 ――やっぱり?

 さっきは本当に背筋が冷えた。
 彼女がいくら親しみやすくても、恐るべきラージアンの女王であることを、決して忘れてはいけないのだ。

「ごめん。気をつける……」

「新鮮で楽しいけどね。私を小突いたりするのは、宇宙広しといえど、夏樹くらいのものだよ?」

 ディーバはするりと夏樹の腕に手を絡めて、にっこり笑った。

「夏樹」

 いつの間にか、すぐ傍にシュナイゼルが立っていた。

「それに、心強いナイトもいるしね……。安心していいんじゃない?」

 返答に詰まって視線を泳がせると、戦闘機の中にいるリリアンと目が合った。怖い顔で夏樹を睨んでいる。

 ――嫌われてるみたい……。

 気は進まないが、居心地の悪さを我慢して、大人しく戦闘機に乗り込んだ。

「主審は私がするとして、副審はどうするの?」

「夏樹一人じゃだめ?」

 無邪気なディーヴァの言葉に、空を仰ぎそうになった。

「オフサイドの判定は、一人じゃ絶対に無理だよ。私が主審なら、フィールドに入らないといけないし……」

「判った。それじゃ、シドとシュナイゼルに副審をやらせよう」

「ディーヴァ……、本当に私が主審やるの?」

「もちろん」

「私、ルールよく判ってないよ?」

 夏樹はルールブックを握りしめて、おさらしているレベルだということをアピールした。

「フィーリング!」

 ディーヴァは胸をドンと叩いて、にっこり笑う。
 そんなノリでいいのなら、夏樹でもどうにかなりそうだが……、先日の阿鼻叫喚な光景を見ているだけに、不安は募る。
 副審を当日に決めるあたり、嫌な予感しかしない。
 スタジアムに着くと、既に埋め尽くさんばかりのラージアンが集まっていた。
 一見大人しく観客席に座っているように見えるが、彼等には前科がある。いつ暴れ出すか、判ったものじゃない。

「今日は、大丈夫だよね?」

「もちろん!」

 ディーヴァは自信たっぷりに答えた。ちっとも安心できないのは、何故だろう……。
 今度は後ろを振り向いて、縋るような眼差しでシュイナイゼルを見つめた。

「大丈夫だ、夏樹」

 不安が消えたわけではないが、信じるしかない。
 シュイナイゼルを見つめたまま無言で頷くと、ディーヴァは面白くなさそうに呟いた。

「ラージアンの女王たる私より、司令を信じるってどうなの、夏樹」

 ――だって、ディーヴァだし……。

 フィールドに入ると、両サイドで待機していた、各チームの選手達が中央に集まってきた。
 ユニフォームは着用していないが、代わりに腕章のようなものを右腕につけている。遠目にもはっきりと判る、鮮やかな蛍光イエローとグリーンだ。区別をつけやすくて助かる。

「ちゃんと選手を決めたんだね……」

「もちろん。今日は五試合やるよー」

「そんなに!?」

「おー!」

 二メートル以上あるラージアンの選手達が、フィールドの中央にずらりと並ぶ。その合間に立った夏樹は、巨人に挟まれた気分になった。
 頼りにしているシドとシュナイゼルは、コートの外で副審として待機している。
 にわか知識でどこまでやれるか判らないが、夏樹がラージアンカップの主審を務めるのだ。

 ――やるしかない。