燈幻郷奇譚

1章:遠き月胡の音 - 0 -







太古より、八百万の神々が住む蓬莱山ほうらいさんの頂には、
不老不死の霊薬、澄花酒とうかしゅがあるといわれている。

蓬莱山の高所に住む狼は、神々の藩屏はんぺいとして、
山の秩序と澄花酒を護っていた。

しかし、麓に人間が住むようになると、
澄花酒を狙う盗人や、狼信仰の魔除けの犠牲となり、
狼は絶滅してしまう。

憐れんだ天帝は、狼が二度と人間に襲われぬよう、
人の姿と、翼をもつ狼の二つの姿を与え、
威徳高い神獣、天狼として転生させた。

人間は蓬莱山に立ち入ることを禁じ、
麓にお社を建立し、天狼を祀るよう命じた。

天狼は、蓬莱山の高所に集落を築くと、
以降は下界と交わることなく暮らした。

群れで最も力ある狼を天狼主あめのおおかみぬし といい、
山の守護神として人間達に畏れ崇められた。