人食い森のネネとルル

1章:底なし沼の珍事と共生のはじまり - 11 -

 ネネが食事を終えたら、今度はルルの番である。

「――待って、掌でもいい?」

 左手を対面するルルに差し出したところで、手首を吸われた時、かなり恥ずかしかったことを思い出した。まだ掌の方がマシな気がする。

「いいよ」

 ルルは掌に唇を押し当てると、優しく吸いついた。最初は良かったのだけれど、しばらくすると、またしても落ち着かない気分になってきた……。

「まだ……?」

「ん……、もう少し。掌は少し吸収しづらいんだ」

「そうなの? 先に言って欲しかった……、……っ!?」

 ルルは指と指の合間に、舌を這わせ始めた。
 予期せぬ感触に、目を見開いた。なんとルルは指と指の合間に、舌を這わせ始めたのだ。
 そんなことをしないと、食餌できないのだろうか。こんなことなら、まだ手首の方がマシな気がする。恥ずかし過ぎてルルを直視できない。

 ――無理! ルル――ッ!

 人差し指が、燃えるように熱くなった。濡れた感触に驚いて、そっと目を開けたら、ルルの唇の中に吸い込まれていた――。
 理解すると同時に、左手を奪い返した。ルルの胸を突き飛ばす。ルルは大してよろめかなかったけれど、二人の間にスペースは生まれた。
 心臓がすごい勢いでバクバクと音を立てている。

「ネネ」

 ルルは不満そうだ。

「だって」

「まだ足りないよ」

「え、長くない!? あとどれくらい?」

「ん―、あと指二本かなぁ」

 ――に、二本かぁ……。

 仕方なく左手を差し出すと、ルルは美味しそうに、中指をしゃぶり出した。なんだか見てはいけないものを見ているような気がしてくる……。膝に置いた右手を、じっと見つめて耐えた。

「ごちそうさま」

 薬指まで舐められたところで、ようやく食餌は終わった。

「はぁ……、もう、掌はやめよう。今までで、一番きつかった……!」

「そう? 私はどこでも構わないよ」

「一番効率よく、さっさと終わるのは、どこなの?」

「そんなの、つまらないよ。食餌は楽しむものじゃないの?」

「いいから」

「そうだなぁ……」

 ルルはつと指を伸ばすと、断りもなく唇に触れようとしたので、ぺしっと手で払い落してやった。

「唇以外は?」

「あるけど……」

「けど?」

 ルルは小首を傾げた後、再び指を伸ばして、首をさした。しかし、指はそのまま、するすると下へ落ちていき……、胸のふくらみを滑り出したところで、ルルを突き飛ばした。

「何すんだ!」

「ネネはお子様だからなァ]

 馬鹿にしたような表情に腹が立った。ルルの触り方がいけないのだ。もっと普通に、精気を吸い取る方法はないのだろうか。

「ルルのへったくそ!」

「はぁっ?」

「もっと普通に、空気みたいに、蚊が止まったくらいに、何も感じさせず吸えないの!?」

「何それ、つまんない」

「いちいちいやらしい真似すんな、馬鹿! 食餌させないぞ」

「約束が違う!」

「じゃあ、変な吸い方するな!」

「えぇ――っ!」

 吸い方について、しばらくルルとぎゃあぎゃあ言い合っていたけれど、解決はしなかった。