ラージアンの君とキス
3章:宇宙戦争 - 12 -
「ン……」
目を覚まして、起き上がろうとしたら、身体がぐるんと一回転した。
「わぁっ!」
床に激突はせず、宙に浮いたまま、ばたばたと手足を掻く。無重力――。
「な、何で……」
――そうだ、シェルターに入って……。
真っ暗で何も見えない。
「アース」
サポートギアは反応しない。シェルターにいるせいだろうか……。音も光もない、五感の絶たれた空間で、夏樹は悲鳴を上げた。
「誰か! 助けて!」
喉が嗄れる程叫んでも、状況は少しも変わらなかった。
時間が経つにつれて、ここはシェルターじゃないのでは……、そんな疑惑が芽生えた。リリアンに騙されて、アースも機動出来ないような所に閉じ込められているのではないだろうか……。
「ふ……、うぅ……っ」
嗚咽を噛み殺した。
泣いても何の解決にもならない……。でも怖くて仕方ない。
せめて身体の自由が利けばいいものを。手足を掻いても、いっこうに進まないのが辛い。このままなすすべもなく、閉じ込められたままなのだろうか――。
無音。
どれだけ時間が経ったか判らない。
朦朧としていると、ふっと身体が前進した。
――動いた……!?
相変わらず無重力だが、ピンで止められたように身動きのできない地獄からは解放された。次いで、一筋の光を感じた。
「夏樹」
頭上に丸い穴が開いて、青い光と共に、懐かしいシルエットが映る。昏い照明ですら、暗闇に慣れた目にはきつい。目を焼きそうになりながら、必死に見上げた。
「シュナイゼル……ッ!」
真っ暗だった室内は、ブンッと電子音と共に、急に稼働し始めた。広々としていて、一面青い照明に照らされている。ラージアンに攫われた時に乗せられた、小型戦闘機を思い出した。
無重力はさざ波のように消えて、ゆっくり夏樹の身体は地面に降ろされた。ようやく地面に足がつくと、心底ほっとした。
「済まない。遅くなった」
「シュナイゼル……」
シュナイゼルの姿を見たら、身体中から力が抜けた。腕を伸ばして縋りつくと、しっかりと抱きしめてくれた。
「うぅ……っ」
――怖かった……っ……誰もこなかったら、どうしようかと思った……良かったよぉ……!
ラージアンに攫われてから、いろいろな恐怖を味わってきたけれど、今回が一番怖かったかもしれない。
真っ暗な暗闇に一人きり、身動きも取れず、音も聞こえない世界。
死ぬほど恐ろしかった。
今になって、ぶるぶると全身が激しく震え出した。
「夏樹……」
夏樹の恐慌状態が納まるまで、シュナイゼルはしっかりと抱きしめてくれていた。
「リリアンは……?」
ようやく落ち着いた頃、気になっていたことを訪ねてみた。
「ディーヴァが拘束した。今回のことは、彼女が独断でやったことだ」
「私が、邪魔だったんだね」
「誰も夏樹を邪魔だなんて考えていない。リリアンは夏樹が新たな女王候補になると勘違いをして、コロニーから追放しようとしたんだ」
「そんな……」
シュナイゼルの言う通りなのかもしれない。けれど、もっと単純な動機が混じっているような気がした。
――リリアンは、シュナイゼルのことが、好きなんじゃないかな……。
「夏樹、ここはコロニーではない。この機体は今、惑星ベガに不時着している」
「えっ」
「心配ない。母艦 と光互換水晶 で交信可能だ。夜明けには迎えが来る」
「シュナイゼル、一人?」
「捜索艦 は出しているが、ここへ辿り着いたのは私だけだ。夏樹の電磁波を辿り、どうにか見つけることができた。アースが反応しないから、心配した」
「どうやって、ここまで来たの?」
「戦闘機に乗ってきたが、襲われて動力部を破損してしまった。この機体は脱出用ポッドなので、迎えを待つしかない。だが心配はいらない。必ず助ける」
「うん」
いろいろと不味い状況にあるようだが、不安は感じなかった。
シュナイゼルと一緒にいるからだ。
彼と一緒なら、どんなことがあっても、絶対に大丈夫だと思える。
目を覚まして、起き上がろうとしたら、身体がぐるんと一回転した。
「わぁっ!」
床に激突はせず、宙に浮いたまま、ばたばたと手足を掻く。無重力――。
「な、何で……」
――そうだ、シェルターに入って……。
真っ暗で何も見えない。
「アース」
サポートギアは反応しない。シェルターにいるせいだろうか……。音も光もない、五感の絶たれた空間で、夏樹は悲鳴を上げた。
「誰か! 助けて!」
喉が嗄れる程叫んでも、状況は少しも変わらなかった。
時間が経つにつれて、ここはシェルターじゃないのでは……、そんな疑惑が芽生えた。リリアンに騙されて、アースも機動出来ないような所に閉じ込められているのではないだろうか……。
「ふ……、うぅ……っ」
嗚咽を噛み殺した。
泣いても何の解決にもならない……。でも怖くて仕方ない。
せめて身体の自由が利けばいいものを。手足を掻いても、いっこうに進まないのが辛い。このままなすすべもなく、閉じ込められたままなのだろうか――。
無音。
どれだけ時間が経ったか判らない。
朦朧としていると、ふっと身体が前進した。
――動いた……!?
相変わらず無重力だが、ピンで止められたように身動きのできない地獄からは解放された。次いで、一筋の光を感じた。
「夏樹」
頭上に丸い穴が開いて、青い光と共に、懐かしいシルエットが映る。昏い照明ですら、暗闇に慣れた目にはきつい。目を焼きそうになりながら、必死に見上げた。
「シュナイゼル……ッ!」
真っ暗だった室内は、ブンッと電子音と共に、急に稼働し始めた。広々としていて、一面青い照明に照らされている。ラージアンに攫われた時に乗せられた、小型戦闘機を思い出した。
無重力はさざ波のように消えて、ゆっくり夏樹の身体は地面に降ろされた。ようやく地面に足がつくと、心底ほっとした。
「済まない。遅くなった」
「シュナイゼル……」
シュナイゼルの姿を見たら、身体中から力が抜けた。腕を伸ばして縋りつくと、しっかりと抱きしめてくれた。
「うぅ……っ」
――怖かった……っ……誰もこなかったら、どうしようかと思った……良かったよぉ……!
ラージアンに攫われてから、いろいろな恐怖を味わってきたけれど、今回が一番怖かったかもしれない。
真っ暗な暗闇に一人きり、身動きも取れず、音も聞こえない世界。
死ぬほど恐ろしかった。
今になって、ぶるぶると全身が激しく震え出した。
「夏樹……」
夏樹の恐慌状態が納まるまで、シュナイゼルはしっかりと抱きしめてくれていた。
「リリアンは……?」
ようやく落ち着いた頃、気になっていたことを訪ねてみた。
「ディーヴァが拘束した。今回のことは、彼女が独断でやったことだ」
「私が、邪魔だったんだね」
「誰も夏樹を邪魔だなんて考えていない。リリアンは夏樹が新たな女王候補になると勘違いをして、コロニーから追放しようとしたんだ」
「そんな……」
シュナイゼルの言う通りなのかもしれない。けれど、もっと単純な動機が混じっているような気がした。
――リリアンは、シュナイゼルのことが、好きなんじゃないかな……。
「夏樹、ここはコロニーではない。この機体は今、惑星ベガに不時着している」
「えっ」
「心配ない。
「シュナイゼル、一人?」
「
「どうやって、ここまで来たの?」
「戦闘機に乗ってきたが、襲われて動力部を破損してしまった。この機体は脱出用ポッドなので、迎えを待つしかない。だが心配はいらない。必ず助ける」
「うん」
いろいろと不味い状況にあるようだが、不安は感じなかった。
シュナイゼルと一緒にいるからだ。
彼と一緒なら、どんなことがあっても、絶対に大丈夫だと思える。