ラージアンの君とキス

3章:宇宙戦争 - 4 -

「えっと……、それじゃ、フィールドorボールを決めようか。コイントスでいい?」

 ディーヴァは輝くような笑顔で頷くと、ポケットから宝石みたいな金貨を取り出して夏樹に渡した。
 コイントスの前に、それぞれのチームのキャプテンに、表裏を選ばせて、ピンッとコインを弾く。陽光を浴びてキラリと光るコインが夏樹の手に落ちる。

「それじゃ、私は放送席で見てるから」

 キックオフが始まる前に、ディーヴァはそそくさとコートの外へ出て行った。
 破天荒な少女でも、いなくなると寂しい。心細さを覚えたが、コイントスも決まり、いよいよキックオフを迎えた。

『ラージアンカップ、開幕! 諸君、検討を祈る!』

 芝居ががった口調で、ディーヴァの声がマイクを通して会場に響き渡る。夏樹も気を引き締めて、ボールに集中した。
 開幕を告げるホイッスルを高らかに鳴らす――。

「きゃぁ――っ!?」

 ホイッスルを鳴らした途端、恐ろしい現象が起きた。
 GKを含めた全選手が、キックオフと同時に、一つのボールに殺到したのだ。

 ――こんなの、サッカーじゃないっ!

 彼等が殺到したせいで、フィールドは無残にえぐれて、芝生や土が宙を舞った。
 いつの間にか、おののく夏樹の隣にシュナイゼルが立っていた。心配して駆けつけてくれたようだ。

「うぅ、シュナイゼル……」

 情けない声で訴える夏樹を見て、シュナイゼルはラージアン達を一喝した。

「ルールを守れ。そしてパスワークをしろ」

 夏樹も必死で頷いた。

 ――その通りだ。パスをしろ、パスを……!

 ラージアン達は言葉を口にしないから一見静かに見えるが、基本的に何をやらせても、俺が!俺が!と前のめりな姿勢だ。
 しかし、シュナイゼルの注意が効いたのか、一応フォーメーションらしきものを取り始めた。
 守備中心のDF(ディフェンダー)、中盤中心のMF(ミッドフィールダー)、攻撃中心のFW(フォワード)……。ぱっと見る限り、役割分担してポジションについている。
 よし、と気を取り直してフリーキックの指示を出した。
 ゲーム再開。
 彼等は華麗なパスワークを見せ始めた――しっぽを使って。
 ピィ――ッ!
 サッカーは基本的には、足でボールを蹴るスポーツだ。
 夏樹は反則と判断して、ホイッスルを鳴らしたが、全ラージアンから猛反対を受けた。

「尾は第三の脚も同然だ。ボールに触れてはいけない理由が判らない」

「そうだ」

「ナツキ、尾は許可して欲しい」

 ――うぅ……!

 弱り切って、副審のシドとシュナイゼルを見たら、OKと言うように、旗を高く掲げて応えてくれた。

「判った、しっぽOKっ!」

 オォ――ッ!
 夏樹が叫んだ途端、全ラージアンから大歓声が上がった。
 あんなに静かに観戦していたのに、いきなりスタンディングオベレーションで、歓声を上げている。夏樹はびびりまくった。
 そんなに嬉しかったのだろうか……。
 その後は、最初の静けさが嘘のように、観客達は声帯を使って、歓声や野次を飛ばし始めた。
 楽しんでくれるのは結構だが、ヒートアップし過ぎて怖い。そのうち暴動が起きそうだ……。
 ピィ――ッ!
 何度目か判らない、ホイッスルを鳴らした。
 さっきから、ラージアン達はボールを手で取ってしまうのだ。
 しっぽは許可したが、手でボールに触るのは完全なNGだ。それを許可したら、もはや別のスポーツになってしまう。

「ナツキ、何故だ」

 主審の夏樹とコミュニケーションをとる為、選手たちもたどたどしい発音で、言葉にしてくれるようになった。
 激昂した様子はないことが救いだが、目の前に立たれると二メートルを越える長身に圧倒されてしまう。夏樹は気丈にも顔を上げて、声を張り上げた。

「しっぽはOK! 手はNG! 判った!?」

 全員、渋々頷いた。
 しっぽを使ったパスワークは実に華麗だ。それも恐ろしく速い。目が追いつかずに、夏樹は何度も転びそうになった。
 よろめく度に、必死に体勢を整えた。ぽやぽやしていたら、飛んでくるボールに当たってしまう。
 彼等の強力な脚やしっぽに弾かれるボールに当たったら、大参事になりかねない。

「あぅっ!!」

 恐れていた事態が起きた。
 尾で弾かれた剛速球が、夏樹の横腹に直撃した。