メル・アン・エディール - 飛空艦と少女 -

1章:古代神器の魔法 - 8 -

 四日目の夜、ルーシーが部屋にやって来た。
 何だか久しぶりに顔を見る気がする。相変わらず、見惚れるような美貌だ。凛々しい詰襟の軍服がよく似合っている。

『アスカ、*******……』

「ルーシー」

 ルーシーの傍へ寄ると、観察するように見下ろされた。

“元気そうだな”

 心外に思い、飛鳥は不服そうに眼を眇めた。
 ルーシーは、リオンの差し入れた絵本やぬいぐるみに気付くと、部屋を見渡して飛鳥を見やる。

“いろいろ増えたな……。十二、三歳?”

「えっ!?」

 子供に思われていることは知っていたが、そこまで下に見られるとは思わなかった……。

“……まただ。何を驚いている?”

 まずい。ルーシーの心の声に、つい反応してしまった。気をつけていても、なかなか上手くいかない。表情を動かさないよう、かなりの努力が必要だった。

“エーテルを使っているようには見えない……、しかし適応能力がある……”

『アスカ***、エーテル******?』

 飛鳥は判らない、というように首を左右に振った。

“ルジフェル閣下はアスカを見て、何と言うだろう……”

「ルジフェル」

 その名前には聞き覚えがある。リオンの思考にも何度か出てきた名前だ……。その人が、飛鳥の今後を左右する鍵を握っているのだろうか――。

『********?』

“今、ルジフェルと言った? 行政庁長官を知っているのか?”

 弾かれたように顔を顔を上げると、ルーシーと目が合った。しまった。どんな顔をすればいいのか判らない。咄嗟に背中を向けると、肩を掴まれて体を反転させられた。

『********?』

“知ってるのか?”

 慌てて首を左右に振ったけれど、その仕草を見て、ルーシーは眉を顰めた。

『……』

“言葉を、理解している?”

「――っ!」

 誤魔化そうとすればするほど、裏目に出てしまう。思いっきり視線を逸らしてしまい、余計に疑念を与えてしまった。ルーシーはなかなか許してくれない。飛鳥がどれだけ顔を背けても、視線を合わせてくる。

『*******?』

“なぜ話さない?”

「すみません、判りません! 離して」

『アスカ**、**********、******?』

“なぜ話せない振りを?”

「判りません!」

『***********……』

 ルーシーは飛鳥の顎を掴むと、間近で顔を覗き込んだ。不思議な虹彩の青い瞳に、目を丸くしている飛鳥の顔が映っている。

『*********』

“話せ”

「すみません、判りません」

“何を隠している?”

 ルーシーはすっかり疑っている。言葉を話せないのは、本当のことなのに。飛鳥の耳元に顔を寄せると、吐息を吹き込むように囁いた。

『*********……』

“話すか?”

 長い指で耳たぶに触れられて、飛び上がりそうになった。とても冷静でいられない。飛鳥を追い詰めるように、妙に優しい手つきで触れて、プレッシャーを与え続ける。
 耐え切れず、暴れて逃げようとしたら、振り上げた両腕を簡単に掴まれてしまった。

『******!』

“話せ”

「ルーシー、メル・アン・エディール!」

 不安と緊張が限界に達し、ついに言ってしまった。