メル・アン・エディール - 飛空艦と少女 -
4章:出航 - 4 -
城に滞在して二日。
飛鳥はルーシーと面会の為、応接間に案内された。ルーシーはまだきていない。 心を落ち着かせようと、先ほどから、無心で素晴らしい窓辺の景色を眺めている。
空の彼方。
高度の基準となる空の基線から、高度三千メートルの上空。
三十二機の雷撃機を兼ねる帝都巡空機は、航空長官機を先頭にして四機編隊が雁行陣 を組んで、茫漠 の碧空を流れてゆく。
更にその後ろから、左右五機ずつ、計十機の中型巡空艦が、ゆったりと空を泳いでいく。
バビロンを守る空の守護神達。
時折、白い航跡を空に引いて、一糸乱れぬ鋼の編隊飛行で悠々と翔けてゆく。白い鳥の群れが、鋼鉄に寄り添い空を渡ってゆく……。
『アスカ』
縁に頬杖をついて空を見上げていると、背中に声をかけられた。振り向けば、軍服姿のルーシーがやってくる。
『お早うございます、ルーシー』
飛鳥は藍色のドレスの裾を摘まみ、教えられた宮廷挨拶で応えた。
『お早う』
そこで沈黙が落ちる。飛鳥が俯くより先に、ルーシーの方から声をかけてきた。
『****アスカ**********』
“空母に戻りたいというのは、本当ですか?”
「――……」
緊張して咄嗟に応えられずにいると、ルーシーは首を傾げて“違うのですか?”と念を押してきた。違わない。その通りだ。
『はい』
ようやく口にした声は、とても強張っていた。ルーシーの表情も硬くなる。
『……******』
“……ローズド・パラ・ディアに乗船したいということ?”
『はい』
“本当に?”
『はいっ』
しっかり頷くと、ルーシーは安堵したように表情を和らげた。
“良かった。歓迎しますよ”
彼は緊張を解いたように微笑んでいるが、飛鳥はまだ不安を拭えなかった。本当に“良かった”と思ってくれるのだろうか?
迷惑にならないだろうか。リオンやカミュはどう思うだろう。あらゆる懸念が頭をもたげて、飛鳥の心に水を差す。
硬い表情のままの飛鳥をみて、ルーシーは訝しげに眉をひそめた。
“あまり嬉しそうではありませんね?”
「えっと……」
“襲撃のことを気にしている?”
心配げに尋ねられて、首を左右に振った。確かに怖い体験だったけれど、それでもなお空母に戻りたい。
“もう隔離室に閉じ込めたりしませんよ?”
自然と笑みを誘われた。それはありがたい。
“言葉を覚えてもらいながら、少しずつ艦の生活に馴染んでいけるよう手配します”
『はい』
淡い笑みを浮かべたまま頷くと、ルーシーは真面目な顔でなおも続ける。
“古代神器の研究に必要な環境は、艦にも揃っています。飛鳥に協力をお願いしますが、不快な思いや、無理強いはしないと約束します”
『はい』
“ユーノには、これまで通りアスカの護衛を任せます。艦には、ロクサンヌもいますよ”
何だか熱心に勧誘されている気がして、ふっと自然な笑みが零れた。和やかに笑うアスカを見て、ルーシーはふと言葉を途切らせる。
“……陛下にお許しをいただいてから、アスカに打ち明けようと決めていました。先日は何も言葉をかけられず、悲しませてすみませんでした”
「いいえ……」
ふと客間まで送ってもらった時の、哀しい気持ちを思い出した。あの時は、本当にお別れだと思った。
“悲しんでくれたのは、私と離れたくなかったからだと、思ってもいい?”
飛鳥は小さく息を呑んだ。絶句する飛鳥を暫く眺めた後、ルーシーは傍へ寄るや、飛鳥の手を取った。
飛鳥はルーシーと面会の為、応接間に案内された。ルーシーはまだきていない。 心を落ち着かせようと、先ほどから、無心で素晴らしい窓辺の景色を眺めている。
空の彼方。
高度の基準となる空の基線から、高度三千メートルの上空。
三十二機の雷撃機を兼ねる帝都巡空機は、航空長官機を先頭にして四機編隊が
更にその後ろから、左右五機ずつ、計十機の中型巡空艦が、ゆったりと空を泳いでいく。
バビロンを守る空の守護神達。
時折、白い航跡を空に引いて、一糸乱れぬ鋼の編隊飛行で悠々と翔けてゆく。白い鳥の群れが、鋼鉄に寄り添い空を渡ってゆく……。
『アスカ』
縁に頬杖をついて空を見上げていると、背中に声をかけられた。振り向けば、軍服姿のルーシーがやってくる。
『お早うございます、ルーシー』
飛鳥は藍色のドレスの裾を摘まみ、教えられた宮廷挨拶で応えた。
『お早う』
そこで沈黙が落ちる。飛鳥が俯くより先に、ルーシーの方から声をかけてきた。
『****アスカ**********』
“空母に戻りたいというのは、本当ですか?”
「――……」
緊張して咄嗟に応えられずにいると、ルーシーは首を傾げて“違うのですか?”と念を押してきた。違わない。その通りだ。
『はい』
ようやく口にした声は、とても強張っていた。ルーシーの表情も硬くなる。
『……******』
“……ローズド・パラ・ディアに乗船したいということ?”
『はい』
“本当に?”
『はいっ』
しっかり頷くと、ルーシーは安堵したように表情を和らげた。
“良かった。歓迎しますよ”
彼は緊張を解いたように微笑んでいるが、飛鳥はまだ不安を拭えなかった。本当に“良かった”と思ってくれるのだろうか?
迷惑にならないだろうか。リオンやカミュはどう思うだろう。あらゆる懸念が頭をもたげて、飛鳥の心に水を差す。
硬い表情のままの飛鳥をみて、ルーシーは訝しげに眉をひそめた。
“あまり嬉しそうではありませんね?”
「えっと……」
“襲撃のことを気にしている?”
心配げに尋ねられて、首を左右に振った。確かに怖い体験だったけれど、それでもなお空母に戻りたい。
“もう隔離室に閉じ込めたりしませんよ?”
自然と笑みを誘われた。それはありがたい。
“言葉を覚えてもらいながら、少しずつ艦の生活に馴染んでいけるよう手配します”
『はい』
淡い笑みを浮かべたまま頷くと、ルーシーは真面目な顔でなおも続ける。
“古代神器の研究に必要な環境は、艦にも揃っています。飛鳥に協力をお願いしますが、不快な思いや、無理強いはしないと約束します”
『はい』
“ユーノには、これまで通りアスカの護衛を任せます。艦には、ロクサンヌもいますよ”
何だか熱心に勧誘されている気がして、ふっと自然な笑みが零れた。和やかに笑うアスカを見て、ルーシーはふと言葉を途切らせる。
“……陛下にお許しをいただいてから、アスカに打ち明けようと決めていました。先日は何も言葉をかけられず、悲しませてすみませんでした”
「いいえ……」
ふと客間まで送ってもらった時の、哀しい気持ちを思い出した。あの時は、本当にお別れだと思った。
“悲しんでくれたのは、私と離れたくなかったからだと、思ってもいい?”
飛鳥は小さく息を呑んだ。絶句する飛鳥を暫く眺めた後、ルーシーは傍へ寄るや、飛鳥の手を取った。