人食い森のネネとルル

3章:人食い森と追跡者 - 3 -

 日が暮れると、ネネはうきうきと台所に立った。お土産にもらった野兎で、兎肉のシチューを作るのだ。

「ネネ、嬉しそうだね」

「美味しそうな兎肉だもん」

「人食い森作戦はどうするの?」

「明日から準備するよ。忙しくなるから、今夜はしっかり食べて、力つけないとね!」

「つまり、兎肉が食べたいんだね……」

「まぁね!」

 全力で頷いた。兎肉をこんがり焼いて、檸檬と岩塩で味付けして一品。牛乳に卵、じゃがいも、椎茸の入ったシチューにして二品目。たんたん、とリズミカルに木机に並べる。とっておきのウォッカを取り出すと、景気よく煽った。

「美味しいーっ!」

 今度黒いのに会ったら、うんと感謝をしなくては……。
 久しぶりの兎肉に舌鼓を打った後、自ら手をルルに突き出した。今夜は機嫌がいい。ルルも腹いっぱいに精気を食べればいい、気前よくそう思った。

「いいの?」

「許す」

 厳かに言うと、ルルは可笑しそうに吹き出した。席を立って、ネネの傍で膝立ちになると、差し出した右手に舌を這わせた。
 相変わらず背筋がぞくぞくするが、そろそろ慣れたい。唇を噛みしめて、込み上げてくる熱を必死に我慢しているのに、ルルは指を甘噛みして舌を絡めてねぶり出した。

 ――そんなことしないと、精気って吸えないものなの……?

「ルル……」

 そろそろ終わらないだろうか……。
 勿忘草わすれなぐさよりも尚青い瞳が、魔性を帯びて煌めいている。薄暗い室内でも、鮮やかな青の光彩がはっきりと分かる。
 ぞくりと背筋が冷えた。
 美しくも恐ろしい瞳だ。何故だろう、見続けてはいけない気がする。閉ざされた何かが、呼び起こされそうで――。

「……っ、まだ……?」

「もう少し……」

「そんなに、美味しいの……?」

「――とっても」

 ルルはうっとりとした表情で、ネネを見つめた。指先にちゅっと口づけて、再び舌を這わせる。指をまるごとしゃぶられると、忍耐の限界に達して手を振り払った。

「ネネ」

「だって……」

「まだ足りない」

「うぅ……」

「もっと、ちょうだい……?」

 ルルは椅子に座るネネを追い詰めるように、背を伸ばして綺麗な顔を近づけた。

「ルル、近い、近い!」

「キスしてもいい?」

「は!?」

 キス……食餌のことを言っているのだろうか。勢いよく首を振った。

「アタシとの約束、その六! 唇はなし!」

「あ、それは覚えてるんだ……」

「あーん?」

「ん、なんでもない。精気はいらないから、ネネにキスしたい」

 ルルが変なこと言うから、思考が停止してしまった。意味が分からない。精気はいらないって、食餌しないのに、何でキスする必要があるんだろう……。

「ネネ? しちゃうよ?」

 断る間もなく、ちゅ、と可愛らしく唇にキスされた。直ぐに離れたけれど、理解した瞬間に顔に血が上った。

「ルル!」

「暴れないの、女の子でしょ」

 手を振り上げたら、逆に腕を掴まれてしまった。

「馬鹿かっ!? ルルのせいでしょ!」

「ネネって、お子様だよねぇ……」

 呆れたような口調に腹が立って、渾身の一撃をルルの腹にお見舞いしてやった。どう考えても、ルルが悪い。