人食い森のネネとルル
3章:人食い森と追跡者 - 4 -
翌朝、ネネは森に仕掛ける罠の準備を開始した。
竹で編んだ大きな籠を持って、棲家の近くにある堀へと向かう。堀の岩場へ煙玉を投げ込むと、籠に肘をついて経過を見守った。
「ネネ、何してるの?」
「蛇捕まえるの。あ、ほら出てきた。ルルも手伝って」
「えー……、ネネ、まさか素手?」
「毒は持ってないよ」
「いや、ていうかさ……」
ネネは手際よく蛇を掴んで籠に入れ始めた。
煙に炙られてわんさか出てくるので、捕まえるのは簡単だ。ぶつぶつ言っていたルルも、浮遊の魔力で蛇を籠に入れるのを手伝ってくれた。
「大量、大量」
「そんなに捕まえてどうするの?」
「蛇玉にする。枝に仕掛ける罠だよ。でも何匹かとっておいて、夕飯にしようかな……」
「私は、絶対食べないからね」
ルルはおぞましいものでも見るような目つきで、ネネを見つめた。魔性のくせに……と思うと何だか笑える。
「イヒヒッ、ルルの弱虫」
「ひどい!」
喚 くルルを無視して、納屋の傍に網籠をおろすと、蛇玉の作成に取りかかった。
数匹の蛇を丸めて、蔓でぐるぐると巻きつける。仕掛け糸を引っ張れば、ばらける仕組みだ。これを枝に吊るしておいて、地面に仕掛けるトリガーと連動させる。足を引っかければ、頭上から蛇が降ってくるというわけだ。
「ルル、小石集めてきて」
「何するの?」
「スリングショットとカタパルトの弾に使う」
不思議そうにしているルルに、革紐で造ったスリングショット、Y字の枝で造ったカタパルトを見せてやった。どちらも原始的な武器だが、スリングショットの方は十分な殺傷能力を秘めた狩猟武器だ。といっても、今回狙うのは生き物ではなく、仕掛け罠のトリガーである。
「弓は使わないの?」
「矢じりを残すと、こっちの存在がばれるでしょ。だから、石とか枝とか、森にありふれたものを使う」
「ふぅん」
「あと、大王蜂の巣を見つけたら、取ってきて」
「蜂ぃ? そんなもの、どうするの?」
「頭の上から落とすんだよ。大した毒持ってないから、平気だよ」
「いや、ていうかさ……」
「それから……、こういう赤い実を籠一杯に採ってきて。睡蓮沼の傍にもあるから」
小さな艶やかな赤い木の実を、ルルに渡した。
「何に使うの?」
「すり潰して、血糊に使う」
「なるほど……」
「あとね……」
「ネネ! 人使い荒いっ!」
まだ頼みたいことはあったが、ルルの我慢も限界のようだ。仕方がない……、立ち上ると、宥めるように頭を撫でてやった。
「ネネ、その手さ……、さっき蛇触ってたよね……」
「細かいこと気にするなよ」
「ネネはもうちょっと、気にした方がいいと思う……」
ルルはぶつぶつ文句を垂れたが、ネネが撫でる間、動かずにじっとしていた。ひとしきり撫で終わると、仕方ないなぁと言いつつ採取に向かう。ルルが戻ってくるまでに、ネネもやることはたくさんある。
夜の森には、聖銀装備も必須だ。死霊に目をつけられたら、銀矢や銀弾を撃ち込んで、身を守らねばならない。
聖銀の欠片を磨いて、スリングショット用の弾を幾つか作った後、試し撃ちをすることにした。
岩にチョークで的を描いて、十分離れた所から、スリングショットで聖銀を一発――。
バシッ!
聖銀は岩にめり込み、周囲に亀裂を走らせた。十分すぎる威力だ。これなら人の頭蓋だって砕ける。
「ネネ、取ってきたよー」
間もなくルルは、ネネが注文したものを全て持って帰ってきた。巨大な蜂がぶんぶんと飛び回っているが、ルルに臆した様子はない。
ネネは念入りに虫よけクリームを塗ると、ルルの傍へ駆け寄った。
「ルル、えらい!」
「私に出来ないことはないの」
ルルは得意そうにいつもの台詞を吐いた。澄ましているけれど、褒められて喜んでいると判る。こういうところは、すごく素直だ。
「――それで、いつやるの?」
「今夜、罠を仕掛けて、明後日の晩に勝負する」
ネネは大王蜂の禍々しい巣を撫でると、にやりと笑った。
竹で編んだ大きな籠を持って、棲家の近くにある堀へと向かう。堀の岩場へ煙玉を投げ込むと、籠に肘をついて経過を見守った。
「ネネ、何してるの?」
「蛇捕まえるの。あ、ほら出てきた。ルルも手伝って」
「えー……、ネネ、まさか素手?」
「毒は持ってないよ」
「いや、ていうかさ……」
ネネは手際よく蛇を掴んで籠に入れ始めた。
煙に炙られてわんさか出てくるので、捕まえるのは簡単だ。ぶつぶつ言っていたルルも、浮遊の魔力で蛇を籠に入れるのを手伝ってくれた。
「大量、大量」
「そんなに捕まえてどうするの?」
「蛇玉にする。枝に仕掛ける罠だよ。でも何匹かとっておいて、夕飯にしようかな……」
「私は、絶対食べないからね」
ルルはおぞましいものでも見るような目つきで、ネネを見つめた。魔性のくせに……と思うと何だか笑える。
「イヒヒッ、ルルの弱虫」
「ひどい!」
数匹の蛇を丸めて、蔓でぐるぐると巻きつける。仕掛け糸を引っ張れば、ばらける仕組みだ。これを枝に吊るしておいて、地面に仕掛けるトリガーと連動させる。足を引っかければ、頭上から蛇が降ってくるというわけだ。
「ルル、小石集めてきて」
「何するの?」
「スリングショットとカタパルトの弾に使う」
不思議そうにしているルルに、革紐で造ったスリングショット、Y字の枝で造ったカタパルトを見せてやった。どちらも原始的な武器だが、スリングショットの方は十分な殺傷能力を秘めた狩猟武器だ。といっても、今回狙うのは生き物ではなく、仕掛け罠のトリガーである。
「弓は使わないの?」
「矢じりを残すと、こっちの存在がばれるでしょ。だから、石とか枝とか、森にありふれたものを使う」
「ふぅん」
「あと、大王蜂の巣を見つけたら、取ってきて」
「蜂ぃ? そんなもの、どうするの?」
「頭の上から落とすんだよ。大した毒持ってないから、平気だよ」
「いや、ていうかさ……」
「それから……、こういう赤い実を籠一杯に採ってきて。睡蓮沼の傍にもあるから」
小さな艶やかな赤い木の実を、ルルに渡した。
「何に使うの?」
「すり潰して、血糊に使う」
「なるほど……」
「あとね……」
「ネネ! 人使い荒いっ!」
まだ頼みたいことはあったが、ルルの我慢も限界のようだ。仕方がない……、立ち上ると、宥めるように頭を撫でてやった。
「ネネ、その手さ……、さっき蛇触ってたよね……」
「細かいこと気にするなよ」
「ネネはもうちょっと、気にした方がいいと思う……」
ルルはぶつぶつ文句を垂れたが、ネネが撫でる間、動かずにじっとしていた。ひとしきり撫で終わると、仕方ないなぁと言いつつ採取に向かう。ルルが戻ってくるまでに、ネネもやることはたくさんある。
夜の森には、聖銀装備も必須だ。死霊に目をつけられたら、銀矢や銀弾を撃ち込んで、身を守らねばならない。
聖銀の欠片を磨いて、スリングショット用の弾を幾つか作った後、試し撃ちをすることにした。
岩にチョークで的を描いて、十分離れた所から、スリングショットで聖銀を一発――。
バシッ!
聖銀は岩にめり込み、周囲に亀裂を走らせた。十分すぎる威力だ。これなら人の頭蓋だって砕ける。
「ネネ、取ってきたよー」
間もなくルルは、ネネが注文したものを全て持って帰ってきた。巨大な蜂がぶんぶんと飛び回っているが、ルルに臆した様子はない。
ネネは念入りに虫よけクリームを塗ると、ルルの傍へ駆け寄った。
「ルル、えらい!」
「私に出来ないことはないの」
ルルは得意そうにいつもの台詞を吐いた。澄ましているけれど、褒められて喜んでいると判る。こういうところは、すごく素直だ。
「――それで、いつやるの?」
「今夜、罠を仕掛けて、明後日の晩に勝負する」
ネネは大王蜂の禍々しい巣を撫でると、にやりと笑った。