人食い森のネネとルル

4章:ネネとルルと恋心 - 8 -

 無言でルルと見つめ合っていると、若い娘達の声が聞こえてきた。
 楽しそうに笑い合いながら、四人の娘が並んで石廊を歩いている。中庭にいるネネ達に気づくと、「ルル!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。

「デート? だあれ?」

「こんにちは。そのドレス、すごく可愛いわ」

 四人の娘達は、少しも臆さずに初対面のネネにも声をかけてきた。
 ネネは何を言えば判らず、こくりと頷く。

「悪いけど、向こうへ行ってくれる?」

 ルルのつれない返事に、娘達は不満そうに声を上げた。

「そんなこと言わないで、一緒に遊びましょうよ。今日は花冠祭かかんさいよ、皆ルルに会いたがっているわ」

 何だか娘達と話すルルを、果てしなく遠く感じた。
 ルルは苛立ちを隠しもせず、娘達をあしらい始めたが、悲しそうな顔をする娘達を見ていたら、ネネの方が邪魔をしているような気がしてきた。

「ねぇ……、行ってきたら? もしかして、約束?」

 小さく声をかけると、ルルは焦ったようにネネを見つめた。

「約束なんてしてない! 今はネネと一緒にいるんだから、ここにいるよ」

「向こうの広場で、美味しいお菓子や飲み物を配っているわ。皆で行ってみましょうよ」

 娘達に腕を引かれそうになって、ネネは慌てて立ち上がった。ルルもネネを守るように抱きしめる。青い瞳が魔性に煌めくのを見て、慌てて叫んだ。

「ルルッ! 止せ!」

「ネネ」

「アタシのことはいいから! また、来るから……」

「ネネッ!」

 ルルの声を無視して、背中を向けて駆け出した。けれど、踵のある靴では走り辛い。いっそ脱いで走ろうか迷っているうちに、あっさりルルに捕まってしまった。背中からぎゅっと抱きしめられる。

「待ってよ、ネネ」

「ルル、でも」

「あんな子達、気にしないで。ごめん、嫌な思いをさせて」

「あの子達、どうしたの?」

「もう行ったよ」

「何もしてない……?」

 ルルがなかなか返事をしないから、不安になる。
 顔を見たいけれど、今振り向いたら、ルルの顔がすぐ傍にありそうだ。

「少し、暗示をかけただけだよ」

 ――もしかして、あの子達から精気をもらっていたのかな……。

 思えば、ネネと離れている間、ルルはどうやって食餌をしていたのだろう。
 魔性の身では仕方がない……精気をもらわずには、生きていけないのだから。
 そうは思っても、胸に嫌な気持ちが広がるのを止められなかった。

「離して」

「ネネ、怒ってる?」

「怒ってないから、離して」

「――嫌だ」

 ぎゅうっといっそう強く抱きしめられた。首筋に唇が触れるのを感じて、思わずカッとなった。

「止せ! 馬鹿! アンタってやつは――」

 全力で暴れたけれど、ルルの腕はびくともしなかった。こんな動き辛いドレスでは、身動きもままならない。

「もう離れたくない」

「――っ!」

「行かないで……」

 何だか泣きそうな声だった。
 ネネを抱きしめる腕の強さが、ルルの本気を伝えてくる。ドロドロとした感情がスゥッと引いていくのを感じた。

「人が来るから……」

「……」

「行かないから……、離して」

 ルルはようやくネネを離した。
 不安そうな青い目で見つめられて、つい背伸びをして頭を撫でてしまった。
 艶やかな青銀色の髪は、とてもサラサラしている。指につっかかることなく指間から滑り落ちた。
 その手を掴まれたと思ったら、ルルは唐突に歩き出した。