ラージアンの君とキス

1章:ラージアンと私 - 2 -

 宙を浮いていた身体は、突然、固い地面の上に降ろされた。祐樹やヨシ兄も、皆一緒にいる。
 皆、恐る恐る起き上がると、訳が判らない、って顔で周囲を見渡した。
 夏樹達は、真っ青な照明に染め上げられた不思議な部屋にいた。
 学校の体育館くらいはありそうな、かなり広い部屋だ。天井もとても高い。
 部屋を照らす青い照明以外は、窓も、扉も、何もない部屋だった。

「何だよ、これ……」
「何、ここ……」
「どうなってんの……?」

 皆、似たような疑問を口にしている。誰も、この状況を説明できない。

「夏樹、大丈夫?」

「うん、祐樹は……?」

 お互い、不安そうな顔で見つめ合った。ヨシ兄も傍へきて、呆然と「何だこれ」と呟いている。

「きゃあぁっ!?
「うわぁっ!?」

 突然、鋭い悲鳴が聞こえて、三人そろって振り向いた。

「――っ!?」

 夏樹も悲鳴を上げそうになった。
 見たことのない、ロボットみたいな、アンドロイドみたいな……何かが、こちらへ近づいてきたのだ。
 二メートルはありそうな高身長。全身艶やかな黒色のフルメタル。とても滑らかな動きで、二足歩行している。

 ――なんて精巧なロボットなんだろう……。

 頭が一つに手足が二本ずつ、人間みたいな身体のバランスをしているけれど、後ろにトカゲみたいな長い尻尾がついている。まるで神経が通っているかのような、とても自然な動きで揺れている。

 ――ロボットっていうよりも……、エイリアン?

 頭部の左右には耳の役割を果たすような器官……、ヘッドギアのようなものがついている。
 目と鼻はどこにあるのか分からないけど、口はなんとなく分かった。口唇がなくて、切れ目みたいに見えるけれど、真一文字に引き結んだ線が、きっとそうなのだろう。
 額には、三角形の、ぴかぴかと水色に煌めくLEDライトのようなものがついている。
 かなりじっくり、その謎の生物を眺めていたけれど、祐樹に腕を引かれて壁際まで後ろに下がった。
 他の人達も、恐怖をなしたように壁にへばりついている。

「何なのぉ……」
「んだよ、あれ……」

 周囲から、混乱、すすり泣く声が聞こえてくる……。
 ここにいる全員が、謎の生物の動向を、固唾を呑んで見つめていた。
 謎の生物は、こちらの様子を観察している気がした。目がどこにあるのか判らないけれど……。
 尻尾をゆらゆらと揺らして、興味深そうにしている……ように見える。
 謎の生物は部屋の中腹で止まったかと思ったら、狙いを定めたように、夏樹達の方へと歩いてきた。
 その瞬間、心臓がドクンッと撥ねた。

「やだ……っ!?」

 じっくり眺める余裕は消えて、三人で悲鳴を上げながら、反対側の壁へ走った。
 隣を見ると、祐樹はいるけど、ヨシ兄がいない――。

「ヨシ兄!?」

 振り向いたら、ヨシ兄がその謎の生物に、腕を掴まれていた。

「ヨシ兄ッ!!」

 ――どうしよう……! どうしよう……!

 固まって動けない夏樹と違って、祐樹は弾丸のように駆け出した。

「祐樹ぃっ!?」

 金切り声が出た。風のように飛び出した祐樹は、謎の生物に思いっきり体当たりをした。
 周囲から悲鳴が上がる。
 そいつは、びくともしなかった。
 ヨシ兄の腕を手で掴んだまま、長い尻尾で祐樹を地面にビタンッと押さえつけた。苦しそうな呻き声が上がる。

「やめて……っ!」

 震えながら、二人の方へ近づこうとしたら、壁際にへばりついていた男の人が「止せ!」と鋭く叫んだ。
 その瞬間、思わず足を止めてしまった。
 苦しそうに呻く祐樹と目が合う――。

「夏樹、逃げろ……っ」

 ぼろぼろと涙が溢れた。
 ヨシ兄が、祐樹が、苦しんでいる。

「ふ、二人を……、離してくださぃ……」

 蚊の鳴くような声で告げると、その生き物は、はっきりと夏樹を見た。目がどこにあるのかは判らないけど、そいつは、夏樹の全身を見ていると直感した。

「夏樹、くるな!」
「逃げろ!」

 ヨシ兄と祐樹が、夏樹を見て叫んでいる。
 震える足を叱咤しながら、もう一歩、前に踏み出したところで、聞き覚えのあるフォンッ……という軽い電子音が聞こえた。
 音のした方を見ると、謎の生物がもう一匹、部屋の奥から現れた――。