ラージアンの君とキス
1章:ラージアンと私 - 3 -
夏樹はガタガタと震えながら、その場から一歩も動けずにいた。
新しくきた奴は、ヨシ兄と祐樹を捕まえている奴よりも、全身のシルエットが細身で少しだけ小柄に見える。額のLEDライトのような明かりは菱形だ。
祐樹達は必死の形相で「夏樹! 逃げろ!」と叫んでいるが、二人のことが気がかりで、とてもその場を離れることは出来なかった
謎の生物達は、コミュニケーションを取ろうとしているように、互いに傍へ寄った。その動きはとても自然で、何だか人間のようにも見える。
声は聞こえないし、口も開いていないけれど、彼等は何らかの方法で会話しているのだと思った。
「こんにちは」
「――っ!?」
額に菱形の光を持つ謎の生物は、はっきりと口を使って、完璧な発音で日本語を喋った。
ここにいる全員が、目を丸くした。
「初めまして。私の名前はシュナイゼル。ディーヴァの司令であり、ラージアンの司令塔を務めている」
低いけど柔らかい、落ち着いた声を聞いて、思考は完全に停止した。目の前の生物の名前が、シュナイゼルということだけは理解できたが、それ以外のことは、一ミリも理解できない。
何て完璧な日本語なのだろう。もしかしたら、中に人が入っているのかもしれない。
「ディーヴァは君達に、強い関心を抱いている。幾つか質問してもいいか?」
「はい……」
「この惑星の生態系における、最も強い生命体は、君達、人間という認識で合っているか?」
「え……?」
「地球上で最強の生命体は、人間なのか?」
「……生身じゃなくて、武器使っていいなら、そうなんじゃないの?」
咄嗟に答えられない夏樹に代わって、腕を掴まれた状態のヨシ兄が答えた。
「そうか。試してみたいと、ディーヴァは望んでいる」
「え?」
シュナイゼルじゃない方、ヨシ兄の腕を掴んでいた謎の生物は、ヨシ兄の腕を離すなり、腕一本でヨシ兄の身体を吹っ飛ばした。
一瞬の出来事だ。
ヨシ兄の身体は、軽い玩具みたいに、何メートルも遠くに飛ばされて、ぐしゃりと床に崩れ落ちた。それから、ぴくりとも動かない……。
「きゃあぁ――っ!?」
「ヨシ兄……ッ!!」
「うわあ!?」
全員パニックになった。青い部屋に阿鼻叫喚が満ちる。
「武器。なるほど、外的なものか。個体では、驚くほど弱い」
シュナイゼルの、場にそぐわない落ち着いた声が、異様に気味悪く聞こえた。
夏樹は無我夢中で、未だ尻尾で踏みつけられたままの祐樹の元へ走ると、どうにかして尻尾をどかそうと試みた。
このままだと、祐樹が殺されてしまう。
こいつはやっぱりロボットなんじゃないかと思う程、固い皮膚だった。まるで鋼鉄を触っているみたいだ。
「夏樹、いいから逃げろ!」
「やだぁっ!」
ちっとも尻尾を動かせない。どうすればいいか判らず、シュナイゼルを見上げて必死に懇願した。
「助けてください! お願いします! 殺さないで……っ!」
「殺すつもりはない」
シュナイゼルが答えると、もう一方のフルメタルの生物は、ようやく祐樹の上から尻尾をどかした。殺すつもりはないと言いながら、殴られたヨシ兄はぴくりとも動かない。
祐樹は身体を起こすなり、夏樹を背に隠すようにしてシュナイゼルと対峙した。油断なく睨みつけながら、少しずつ距離を取ろうとしている。
「君達を今後どうするかは、ディーヴァ次第だが……、あの人間を傷つけたことはこちらの過失だ。治療しよう」
フォンッ……と軽い電子音に次いで、扉のない部屋の側面が、いきなり四角い口を開けた。更に五体の謎の生物が入ってくる。
そいつらは、床に倒れたままのヨシ兄を持ち上げて、すぐに部屋を出て行った。
室内に恐怖の息遣いが満ちる。
全員、似たようなことを考えたはずだ。
あいつら、何匹いるんだろう……。
あれは、地球にやってきたエイリアンで、夏樹達を捕まえて、酷いことをしようとしているのではないか……。
「ヨシ兄を、どうするの……」
恐る恐る尋ねると、シュナイゼルは夏樹を見て(目がどこにあるのかは不明)答えた。
「治療しよう。この惑星における、最強の生命体をディーヴァは探している。全員でもう一度考えてみて欲しい。また来る」
そう言って、シュナイゼルも部屋を出て行こうとする。
「ディーヴァって、何?」
「我々ラージアンの頂点に君臨する女王だ。女王が満足すれば、君達も無事に帰れるだろう。ぜひ、私の言ったことを、真剣に考えてみて欲しい」
――真剣に考えろって……、この惑星における……最強の生命体について?
新しくきた奴は、ヨシ兄と祐樹を捕まえている奴よりも、全身のシルエットが細身で少しだけ小柄に見える。額のLEDライトのような明かりは菱形だ。
祐樹達は必死の形相で「夏樹! 逃げろ!」と叫んでいるが、二人のことが気がかりで、とてもその場を離れることは出来なかった
謎の生物達は、コミュニケーションを取ろうとしているように、互いに傍へ寄った。その動きはとても自然で、何だか人間のようにも見える。
声は聞こえないし、口も開いていないけれど、彼等は何らかの方法で会話しているのだと思った。
「こんにちは」
「――っ!?」
額に菱形の光を持つ謎の生物は、はっきりと口を使って、完璧な発音で日本語を喋った。
ここにいる全員が、目を丸くした。
「初めまして。私の名前はシュナイゼル。ディーヴァの司令であり、ラージアンの司令塔を務めている」
低いけど柔らかい、落ち着いた声を聞いて、思考は完全に停止した。目の前の生物の名前が、シュナイゼルということだけは理解できたが、それ以外のことは、一ミリも理解できない。
何て完璧な日本語なのだろう。もしかしたら、中に人が入っているのかもしれない。
「ディーヴァは君達に、強い関心を抱いている。幾つか質問してもいいか?」
「はい……」
「この惑星の生態系における、最も強い生命体は、君達、人間という認識で合っているか?」
「え……?」
「地球上で最強の生命体は、人間なのか?」
「……生身じゃなくて、武器使っていいなら、そうなんじゃないの?」
咄嗟に答えられない夏樹に代わって、腕を掴まれた状態のヨシ兄が答えた。
「そうか。試してみたいと、ディーヴァは望んでいる」
「え?」
シュナイゼルじゃない方、ヨシ兄の腕を掴んでいた謎の生物は、ヨシ兄の腕を離すなり、腕一本でヨシ兄の身体を吹っ飛ばした。
一瞬の出来事だ。
ヨシ兄の身体は、軽い玩具みたいに、何メートルも遠くに飛ばされて、ぐしゃりと床に崩れ落ちた。それから、ぴくりとも動かない……。
「きゃあぁ――っ!?」
「ヨシ兄……ッ!!」
「うわあ!?」
全員パニックになった。青い部屋に阿鼻叫喚が満ちる。
「武器。なるほど、外的なものか。個体では、驚くほど弱い」
シュナイゼルの、場にそぐわない落ち着いた声が、異様に気味悪く聞こえた。
夏樹は無我夢中で、未だ尻尾で踏みつけられたままの祐樹の元へ走ると、どうにかして尻尾をどかそうと試みた。
このままだと、祐樹が殺されてしまう。
こいつはやっぱりロボットなんじゃないかと思う程、固い皮膚だった。まるで鋼鉄を触っているみたいだ。
「夏樹、いいから逃げろ!」
「やだぁっ!」
ちっとも尻尾を動かせない。どうすればいいか判らず、シュナイゼルを見上げて必死に懇願した。
「助けてください! お願いします! 殺さないで……っ!」
「殺すつもりはない」
シュナイゼルが答えると、もう一方のフルメタルの生物は、ようやく祐樹の上から尻尾をどかした。殺すつもりはないと言いながら、殴られたヨシ兄はぴくりとも動かない。
祐樹は身体を起こすなり、夏樹を背に隠すようにしてシュナイゼルと対峙した。油断なく睨みつけながら、少しずつ距離を取ろうとしている。
「君達を今後どうするかは、ディーヴァ次第だが……、あの人間を傷つけたことはこちらの過失だ。治療しよう」
フォンッ……と軽い電子音に次いで、扉のない部屋の側面が、いきなり四角い口を開けた。更に五体の謎の生物が入ってくる。
そいつらは、床に倒れたままのヨシ兄を持ち上げて、すぐに部屋を出て行った。
室内に恐怖の息遣いが満ちる。
全員、似たようなことを考えたはずだ。
あいつら、何匹いるんだろう……。
あれは、地球にやってきたエイリアンで、夏樹達を捕まえて、酷いことをしようとしているのではないか……。
「ヨシ兄を、どうするの……」
恐る恐る尋ねると、シュナイゼルは夏樹を見て(目がどこにあるのかは不明)答えた。
「治療しよう。この惑星における、最強の生命体をディーヴァは探している。全員でもう一度考えてみて欲しい。また来る」
そう言って、シュナイゼルも部屋を出て行こうとする。
「ディーヴァって、何?」
「我々ラージアンの頂点に君臨する女王だ。女王が満足すれば、君達も無事に帰れるだろう。ぜひ、私の言ったことを、真剣に考えてみて欲しい」
――真剣に考えろって……、この惑星における……最強の生命体について?