ラージアンの君とキス
1章:ラージアンと私 - 5 -
床を叩きながら「何で!?」と叫ぶ夏樹に、シュナイゼルは落ち着いた声で告げた。
「ディーヴァが、君に会いたいと言っている」
「えっ!?」
「ついて来てくれ」
そう言ってシュナイゼルは背を向けたが、夏樹は少しも動けなかった。遠ざかっていく祐樹とヨシ兄から目を離せない。
「待ってよぉ……っ!」
ぼろぼろと涙が零れた。固い床をどれだけ叩いても、祐樹達を追いかけていけない。どんどん遠ざかっていく。もう、祐樹の声が聞こえない。夏樹に向かって、必死に叫んでいるのに。
――置いて行かないで……っ!!
透けていた床は、フッと光沢のある素材の色を取り戻した。青い照明に照らされて、床は真っ青に染まって見える。
「祐樹、ヨシ兄、待って……!」
「――夏樹」
名前を呼ばれて恐る恐る振り向くと、シュナイゼルは夏樹をじっと見つめていた。額の菱形は、さっきまで水色だったのに、今は淡い紫色をしている。
「……」
「女王が待っている。私と一緒に来て欲しい」
「私……、どうなるんですか?」
「それは女王次第だ。だが、君に危害を加えないと約束しよう。さぁ……」
手を差し伸べられた。
大きな手だ。指もすごく長い。けど、五本の指があって、人間の手によく似ている。皮膚は全然違うけれど……。
指先にいたるまで、艶やかで硬質な黒色のフルメタルだ。
怖くて手を取れずにいると、夏樹の目の前に、シュナイゼルは片膝をついて跪いた。あらためて、手を差し伸べる。まるで騎士みたいに。
恐る恐る手を重ねると、そっと握りしめられた。ひんやりした手を借りて立ち上った途端、膝が笑った。
「あ……っ」
よろけて転びそうになり、シュナイゼルの腕に咄嗟にしがみついてしまった。その途端、ヨシ兄が吹っ飛ばされた光景を思い出して、慌てて離れた。
――怖い……!
足がもつれて派手に転びかけた時、シュナイゼルに腰を引き寄せられた。
「あ、あ、あ」
目の前に立つと、何て大きいのだろう。
百六〇センチある夏樹よりも、もっとずっと背が高い。触れる身体はひんやりしていて、とても硬かった。恐怖のあまり、言葉が出てこない――。
「怯えることはない。君に危害を加えないと約束した」
「ほ、本当?」
「嘘はつかない」
「私、帰れますか?」
「それも女王次第だ。会いに行こう、夏樹を待っている」
力なく頷くと、シュナイゼルの横に並んで、どうにか自分の足で歩き出した。後ろから、ぞろぞろと他の連中もついてくる……。
全員同じ姿形に見えたけれど、よく見ると少しずつ違うようだ。
大体皆二メートルを越える高身長だが、個体によって背丈差がある。横幅も少しずつ違う。シュナイゼルは、彼等と比べてスタイリッシュというか、スレンダーな体型のようだ。
額に光るLEDライトのような装飾は、シュナイゼルは菱形、他の者は円形で、ヨシ兄を吹っ飛ばした奴は三角形だ。
部屋を出た後は、延々長い一本道を歩かされた。
つなぎ目や扉のない、つるりとした壁面を、天上部に埋め込まれた青い照明が真っ青に染め上げている。まるで、宇宙ステーションに迷い込んだみたいだ。
――どこまで行くんだろう……。
道を進むほどに、後ろに付き従う不気味な連中の数は増えていった。
仕組みは判らないが、つるりとした左右の側面に時々大きな口が開いて、彼等は出入りしている。
硬質な黒いフルメタルのエイリアンの群れの中で、夏樹は完全に浮いていた。たった一人ぼっちの人間だ。
フォンッ……軽い電子音と共に扉が開くたびに、夏樹は肩を縮めて飛び上がった。
――どれだけ、集まってくるんだろう……。
シュナイゼルと夏樹の後ろには、すでに百を越えるエイリアンの行列が出来ている。もう、これがイベントの余興だなんて、とても思えない。夢なら覚めて欲しい。
ようやく一本道に終わりが見えた。
行き止まりかと思ったら、ホログラフィーのように正面の壁が消えて、その奥へとシュナイゼルは足を踏み入れた。
巨大な円形の室内に、夏樹も恐る恐る踏み入ると、声にならない悲鳴を上げた。
――大きい……っ!!
昔映画で観たエイリアンのような、巨大な生物が部屋の中央に鎮座していた。
シュナイゼル達の五倍はありそうな、巨大な体躯。後ろに突き出した頭部。膨れた腹。 全体的に禍々しいフォルムだ……。
額には、水色に光る楕円形のLEDライトのような装飾があり、ぴかぴかと煌めいている。
「彼女がディーヴァ。我々ラージアンを総べる女王だ」
やはり……。
この恐ろしい生き物が、エイリアン達の女王なのだ――。
「ディーヴァが、君に会いたいと言っている」
「えっ!?」
「ついて来てくれ」
そう言ってシュナイゼルは背を向けたが、夏樹は少しも動けなかった。遠ざかっていく祐樹とヨシ兄から目を離せない。
「待ってよぉ……っ!」
ぼろぼろと涙が零れた。固い床をどれだけ叩いても、祐樹達を追いかけていけない。どんどん遠ざかっていく。もう、祐樹の声が聞こえない。夏樹に向かって、必死に叫んでいるのに。
――置いて行かないで……っ!!
透けていた床は、フッと光沢のある素材の色を取り戻した。青い照明に照らされて、床は真っ青に染まって見える。
「祐樹、ヨシ兄、待って……!」
「――夏樹」
名前を呼ばれて恐る恐る振り向くと、シュナイゼルは夏樹をじっと見つめていた。額の菱形は、さっきまで水色だったのに、今は淡い紫色をしている。
「……」
「女王が待っている。私と一緒に来て欲しい」
「私……、どうなるんですか?」
「それは女王次第だ。だが、君に危害を加えないと約束しよう。さぁ……」
手を差し伸べられた。
大きな手だ。指もすごく長い。けど、五本の指があって、人間の手によく似ている。皮膚は全然違うけれど……。
指先にいたるまで、艶やかで硬質な黒色のフルメタルだ。
怖くて手を取れずにいると、夏樹の目の前に、シュナイゼルは片膝をついて跪いた。あらためて、手を差し伸べる。まるで騎士みたいに。
恐る恐る手を重ねると、そっと握りしめられた。ひんやりした手を借りて立ち上った途端、膝が笑った。
「あ……っ」
よろけて転びそうになり、シュナイゼルの腕に咄嗟にしがみついてしまった。その途端、ヨシ兄が吹っ飛ばされた光景を思い出して、慌てて離れた。
――怖い……!
足がもつれて派手に転びかけた時、シュナイゼルに腰を引き寄せられた。
「あ、あ、あ」
目の前に立つと、何て大きいのだろう。
百六〇センチある夏樹よりも、もっとずっと背が高い。触れる身体はひんやりしていて、とても硬かった。恐怖のあまり、言葉が出てこない――。
「怯えることはない。君に危害を加えないと約束した」
「ほ、本当?」
「嘘はつかない」
「私、帰れますか?」
「それも女王次第だ。会いに行こう、夏樹を待っている」
力なく頷くと、シュナイゼルの横に並んで、どうにか自分の足で歩き出した。後ろから、ぞろぞろと他の連中もついてくる……。
全員同じ姿形に見えたけれど、よく見ると少しずつ違うようだ。
大体皆二メートルを越える高身長だが、個体によって背丈差がある。横幅も少しずつ違う。シュナイゼルは、彼等と比べてスタイリッシュというか、スレンダーな体型のようだ。
額に光るLEDライトのような装飾は、シュナイゼルは菱形、他の者は円形で、ヨシ兄を吹っ飛ばした奴は三角形だ。
部屋を出た後は、延々長い一本道を歩かされた。
つなぎ目や扉のない、つるりとした壁面を、天上部に埋め込まれた青い照明が真っ青に染め上げている。まるで、宇宙ステーションに迷い込んだみたいだ。
――どこまで行くんだろう……。
道を進むほどに、後ろに付き従う不気味な連中の数は増えていった。
仕組みは判らないが、つるりとした左右の側面に時々大きな口が開いて、彼等は出入りしている。
硬質な黒いフルメタルのエイリアンの群れの中で、夏樹は完全に浮いていた。たった一人ぼっちの人間だ。
フォンッ……軽い電子音と共に扉が開くたびに、夏樹は肩を縮めて飛び上がった。
――どれだけ、集まってくるんだろう……。
シュナイゼルと夏樹の後ろには、すでに百を越えるエイリアンの行列が出来ている。もう、これがイベントの余興だなんて、とても思えない。夢なら覚めて欲しい。
ようやく一本道に終わりが見えた。
行き止まりかと思ったら、ホログラフィーのように正面の壁が消えて、その奥へとシュナイゼルは足を踏み入れた。
巨大な円形の室内に、夏樹も恐る恐る踏み入ると、声にならない悲鳴を上げた。
――大きい……っ!!
昔映画で観たエイリアンのような、巨大な生物が部屋の中央に鎮座していた。
シュナイゼル達の五倍はありそうな、巨大な体躯。後ろに突き出した頭部。膨れた腹。 全体的に禍々しいフォルムだ……。
額には、水色に光る楕円形のLEDライトのような装飾があり、ぴかぴかと煌めいている。
「彼女がディーヴァ。我々ラージアンを総べる女王だ」
やはり……。
この恐ろしい生き物が、エイリアン達の女王なのだ――。