ラージアンの君とキス
2章:生きるか死ぬか - 7 -
ディーヴァはきょとんとした顔で、ぱちぱちと瞬いた。
「え? だめ?」
「なんで決めておかないの? それに監督は? 審判はどうするの?」
「スタジアム造って、観客集めれば、後は何とかなるかなーって……」
「先ず選手が先でしょう!」
「そ、そうかな……」
夏樹の剣幕に、珍しくディーヴァが押され気味だ。
しかし指摘をしながら、藪蛇 かな、という気もした。特に審判に関しては、先日夏樹にやって欲しいとディーヴァに言われたばかりだ。案の定、ディーヴァは目を輝かせている。
「それじゃ、夏樹に任せる。適当にプレーヤーを選べばいいよ。マイク入るから、観客席に呼びかけてみて」
「私が決めるの!?」
「だって、私が決めたらつまらないし」
「無理だよ、選べない。サッカーも全然判らないし……」
「難しく考えないで、とりあえず十一人ずつ選べばいいよ。はい、マイク」
ディーヴァの強引で物怖じしない性格が恨めしい。さあさあ、とばかりにマイクを向けられて、夏樹はごくりと喉を鳴らすと、やぶれかぶれでマイクに顔を近づけた。
「あの……」
一言発すると、拡声された声がスタジムに響き渡った。
十万ものラージアンがいる割に、会場は水を打ったように静まりかえっている。夏樹の声がやけにはっきりと聞こえて、緊張は余計に増した。
「わー、皆、うるさい!」
ディーヴァはいかにも人間くさい仕草で、両耳を押さえた。あっけにとられて見ていると、シュナイゼルが教えてくれた。
「夏樹の聴覚では捉えられないようだが、我々ラージアンの光互換水晶 では、同胞による膨大な量の電磁波を受け取っている」
「そ、そうなの?」
「そうだ。彼等は今、とても興奮している」
――わ、判らない……。こんなに静まり返っているのに……。
マイクに向かって喋ることは躊躇われたが、ディーヴァに急かされて恐る恐る口を開いた。
「あの、これからサッカーの試合を、します……。十一対十一で試合をします。参加したい方、えっと……、フィールドに降りてきてください」
その直後、開いた口が塞がらないような事態が起きた。
今まで観客席に大人しく座っていた、ラージアン達が一斉に立ち上がり、我先にフィールドへ駆け下りたのだ――。
目を覆うような光景だった。
仲間を押しのけ、競うようにしてフィールドの中心に立とうとしている。
さっきまであんなに静かだったのに、ラージアン同士の壮絶な争いで、フィールドが滅茶苦茶に破壊されていく。耳を覆いたくなるような轟音が響き渡った。
「あ、あ、あ」
夏樹は、ここへ来てから、何度目かの恐慌状態に陥 った。シュナイゼルに抱き寄せられると、きつく瞳を閉じて硬い胸に顔を埋める。
こんな状況だというのに、ディーヴァは楽しそうに無邪気に笑っている。
――もう無理。もう耐えられない。
あと一秒でもあの場にいたら、心を壊していたかもしれない。
けれど、シュナイゼルは夏樹を横抱きにして、狂乱の場から連れ出してくれた。
「夏樹」
スタジアムから連れ出してくれたことは判ったが、瞳を開ける気にはなれなかった。
腕の中でぐったりしていると、優しく頬を撫でられた。
「夏樹」
「こ、怖かった……」
「難しいかもしれないが……、怖がることはない。ラージアン同士では、よくある光景だ。本気で殺し合っているわけではない」
「本当に? あんなに酷かったのに、よくあることなの?」
「そうだ。我々は闘争本能が極めて特化している。ああした小競り合いは日常茶飯事だ」
「……シュナイゼルも?」
「そうだ。立場上、他の個体に比べれば冷静だが、外敵と戦う時には容赦しない」
――こんなに優しいのに……。
「え? だめ?」
「なんで決めておかないの? それに監督は? 審判はどうするの?」
「スタジアム造って、観客集めれば、後は何とかなるかなーって……」
「先ず選手が先でしょう!」
「そ、そうかな……」
夏樹の剣幕に、珍しくディーヴァが押され気味だ。
しかし指摘をしながら、
「それじゃ、夏樹に任せる。適当にプレーヤーを選べばいいよ。マイク入るから、観客席に呼びかけてみて」
「私が決めるの!?」
「だって、私が決めたらつまらないし」
「無理だよ、選べない。サッカーも全然判らないし……」
「難しく考えないで、とりあえず十一人ずつ選べばいいよ。はい、マイク」
ディーヴァの強引で物怖じしない性格が恨めしい。さあさあ、とばかりにマイクを向けられて、夏樹はごくりと喉を鳴らすと、やぶれかぶれでマイクに顔を近づけた。
「あの……」
一言発すると、拡声された声がスタジムに響き渡った。
十万ものラージアンがいる割に、会場は水を打ったように静まりかえっている。夏樹の声がやけにはっきりと聞こえて、緊張は余計に増した。
「わー、皆、うるさい!」
ディーヴァはいかにも人間くさい仕草で、両耳を押さえた。あっけにとられて見ていると、シュナイゼルが教えてくれた。
「夏樹の聴覚では捉えられないようだが、我々ラージアンの
「そ、そうなの?」
「そうだ。彼等は今、とても興奮している」
――わ、判らない……。こんなに静まり返っているのに……。
マイクに向かって喋ることは躊躇われたが、ディーヴァに急かされて恐る恐る口を開いた。
「あの、これからサッカーの試合を、します……。十一対十一で試合をします。参加したい方、えっと……、フィールドに降りてきてください」
その直後、開いた口が塞がらないような事態が起きた。
今まで観客席に大人しく座っていた、ラージアン達が一斉に立ち上がり、我先にフィールドへ駆け下りたのだ――。
目を覆うような光景だった。
仲間を押しのけ、競うようにしてフィールドの中心に立とうとしている。
さっきまであんなに静かだったのに、ラージアン同士の壮絶な争いで、フィールドが滅茶苦茶に破壊されていく。耳を覆いたくなるような轟音が響き渡った。
「あ、あ、あ」
夏樹は、ここへ来てから、何度目かの恐慌状態に
こんな状況だというのに、ディーヴァは楽しそうに無邪気に笑っている。
――もう無理。もう耐えられない。
あと一秒でもあの場にいたら、心を壊していたかもしれない。
けれど、シュナイゼルは夏樹を横抱きにして、狂乱の場から連れ出してくれた。
「夏樹」
スタジアムから連れ出してくれたことは判ったが、瞳を開ける気にはなれなかった。
腕の中でぐったりしていると、優しく頬を撫でられた。
「夏樹」
「こ、怖かった……」
「難しいかもしれないが……、怖がることはない。ラージアン同士では、よくある光景だ。本気で殺し合っているわけではない」
「本当に? あんなに酷かったのに、よくあることなの?」
「そうだ。我々は闘争本能が極めて特化している。ああした小競り合いは日常茶飯事だ」
「……シュナイゼルも?」
「そうだ。立場上、他の個体に比べれば冷静だが、外敵と戦う時には容赦しない」
――こんなに優しいのに……。