ラージアンの君とキス

3章:宇宙戦争 - 10 -

 シュナイゼルの腕の中で泣いた、あの日。
 自分の中の淡い想いに気付いてから、少しずつ彼と距離を取ることにした。
 ラージアン達といる時は、シュナイゼルと離れた所にわざと立ち、彼とばかり会話しないように気をつけた。抱きかかえて運んでもらう必要がある時は、シドに頼むようにしている。

 ――避けたりして、ごめんね……。

 夏樹のぎこちない態度を、シュナイゼルは問い詰めたりしなかった。心配そうにこちらを見つめることはあるが、そっとしておいてくれる。
 シュナイゼルはすごく大人だ。
 距離を置いているのは自分の方なのに、何も言ってこないシュナイゼルに対して不満を感じることもある。その度に自分勝手な感情に嫌気がさした。

 ――最悪だよ、私……。

 気分転換しようと家の外へ出たら、今日に限って、リリアンとシュナイゼルが並んでいる姿を偶然見つけた。
 何だか踏んだり蹴ったりだ。
 思わず引き返そうとしたけれど、それよりも早くシュナイゼルに気づかれた。

「夏樹」

 リリアンを残して、シュナイゼルは一人で夏樹の傍へやって来る。

「いいの?」

「何がだ?」

「リリアン……」

 シュナイゼルは振り返りもせずに「構わない」と頷いた。

「散歩しようかと思ったんだけど、シュナイゼルは?」

「一緒に行こう」

「ここで何してたの?」

「夏樹の様子を見にきただけだ」

 その言葉を聞いた途端、心はふわふわと浮き立った。シュナイゼルに、気にかけてもらえたことが嬉しい。

 ――距離を置くんじゃなかったっけ……。

 たった一言二言のやりとりで、シュナイゼルに寄せる気持ちが、むくむくと膨れ上がってくる。ここ最近の決意と行動が水の泡だ。

「――夏樹、そろそろ戦闘が始まる」

「戦闘?」

「心配はいらない。我等ラージアンの敵ではない。すぐに決着はつくだろう」

「そっか……」

 戦闘と言われても、いまいち想像がつかない。曖昧に返事すると、シュナイゼルは迷ったように口を開いた。

「夏樹……」

「ん?」

「私を、避けている理由を教えて欲しい」

「――っ」

「見守ろうと思っていたが……、やはり気になる」

「避けてないよ」

「しかし……」

「……」

「私のせいか?」

「違う……!」

 咄嗟にシュナイゼルを見上げた。額の信号は淡い紫色に染まり、金色の煌めきが浮いては消えた。夏樹の反応を心配しているようにも、怯えているようにも見える。背後で揺れるしっぽも、何となく元気がない。

 ――最強のラージアンなのに……。

 沈黙が気まずい。このまま並んで散歩を続けるのは、無理な気がしてきた。

「疲れちゃった。やっぱり、帰って休もうかな……」

「夏樹……」

 シュナイゼルの顔を見ることができない。
 俯いて自分の足を見つめていたら、シュナイゼルはそれ以上追及せずに、夏樹の背中を優しく叩いた。

「送ろう」

 ――ごめんね、嫌な思いをさせて……。

 家に帰った後、ディーヴァからワールドカップ観戦しようと、お誘いをもらったが、具合が悪いからと断った。
 初めてディーヴァの誘いを断ったが、許してくれた。
 破天荒な性格をしているが、ディーヴァは何だかんだで優しい。もしかしたら、夏樹が一番、彼等に対して不誠実で、優しさに欠けているのではないだろか……。

 ――あ――……、テンション落ちてる……。