ラージアンの君とキス

3章:宇宙戦争 - 6 -

 意気揚々とフィールドに戻ると、後半スタートを告げるホイッスルを鳴らした。
 両チーム、エンドを入れ替えてプレイ再開である。今度はお互いに反対側のゴールを攻めるのだ。
 開始五分もしないうちに、一体のラージアンが明らかに相手選手にタックルをかました。アメフトなら問題ないが、サッカーでは大ありだ。
 好戦的過ぎるラージアン達に、恐怖を凌駕する苛立ちを覚え始めていた。

 ――お前らっ! 暴力はNGだっつってんでしょうが!

 ピィ――ッ!
 夏樹は怒りのホイッスルを鳴らした。

「レッドカード!」

 声を張り上げてハッとした。
 度重なる違反行為に、現在フィールドに立っているプレイヤーの数は、片チーム既に七しかいない。これ以上減ったら、地球上のサッカールールでいえば、試合に必要な最低人数を下回ることになる……。

 ――あれ、どうしよう……続行していいのかな……。

 夏樹は狼狽えたが、ディーヴァを含め、他のラージアン達は気にした様子はない。滅茶苦茶だと思いながら、試合は続行された。
 フィールドに立つラージアンの数はどんどん減って行く。

 ――サッカーって、こんなスポーツだっけ……。

 決して違う。お願いだから、もう少しファウルを自重して欲しい。
 体力が限界に近づき、朦朧としながらボールを追いかけていると、ラージアン同士の衝突に巻き込まれた。
 あっと思った時には遅く、自分の身体が壊れる、嫌な音が聞こえた。
 身体は仰向けに宙を舞い、青空がやけに鮮明に目に映った。

「夏樹!」

 シュナイゼルの声を聞いた気がした――。




+




 目が覚めた時には、家のベッドに寝かされていた。
 白い天井を見上げながら、ぼんやり記憶を探る。

 ――あれ……家だ……。試合はどうなったんだろう……。

「夏樹」

 びくっとして視線を泳がせると、ベッドの横にシュナイゼルが立っていた。信号を淡い紫色に染めて、心配そうに夏樹を見つめている。

「試合は……?」

「五試合、全て終えた」

「え……」

 上体を起こして、まじまじとシュナイゼルを見つめた。五試合全て……、夏樹が倒れている間に、それほど時間が経過したのだろうか。

「変調はないか?」

「うん、平気……。私、そんなに寝てた?」

「夏樹は、ラージアンの衝突に巻き込まれ、激しく身体を損傷した。劣化が酷く、蘇生に時間を要したんだ」

「蘇生?」

「そうだ。内蔵損傷、十ケ所以上にも及ぶ複座骨折により、一度完全に心停止した」

「私が……?」

「すまない。守ると約束したのに……。言い訳にしかならないが、夏樹を守る空間シールドが、肩の辺りから不自然に破損していた」

「肩……」

 ふと、ハーフタイム明けにリリアンに肩を叩かれた際、静電気のような衝撃を覚えたことを思いだした。
 まさか、という疑惑が胸に込み上げる。
 証拠もないのに、疑うのはよくない……そうは思っても、一度芽生えた疑惑は、なかなか消えてくれなかった。

 ――リリアンなの……? 疲れも吹き飛ぶくらい、嬉しかったのに……。それに……。

 両腕を抱きしめていると、ベッドに腰掛けたシュナイゼルにそっと肩を抱き寄せられた。

「怖い思いをさせた」

「私、死んだの……?」

「夏樹……」

「私、ちゃんと人間だよね?」

 重症を負ったはずなのに、平然としている自分が信じられない。痛み一つ感じていない。何だか、別のモノに変わり果ててしまったような、言いようのない恐怖を覚えた。

「もちろんだ。夏樹は何も変わっていない」

「でも、私……っ」

 声が潤んで、視界に涙が滲んだ。慌てて唇を引き結んだが、掠れるような嗚咽と共に、熱い滴が頬を伝った。

「夏樹、泣かないでくれ……」

 シュナイゼルは夏樹を胸に引き寄せると、困ったように呟いた。

 ――もうやだ……、無理だよ……地球に帰りたい……っ!

 何度思ったことだろう。
 嗚咽が漏れないように、シュナイゼルの胸に頬を強く押し当てた。
 大きな手が、背中と頭をしっかり支えてくれる。優しい腕の中で、しばらく子供のように泣き続けた。