ラージアンの君とキス
3章:宇宙戦争 - 8 -
後日、夏樹を守る空間シールドは、やはり切れていたのだと明らかにされた。そのせいで、ラージアン同士の衝突に巻き込まれて、夏樹は大けがを負うはめになったのだ。
原因はリリアンだった。
彼女は暴かれる前に、自らそのことを口にした。切るつもりはなかった、間違えて切ってしまったのだと……白々しい嘘をついて。
夏樹も立ち会った謝罪の場で、ディーヴァはリリアンの釈明を受け入れた。
死にかけた……事実、一度死んだ夏樹としては納得しかねたが、事を荒立てたくはなかったので、大人しく引き下がった。
――どうせ、地球に帰るまでの辛抱だし……。
ディーヴァも結局、ペット同然の地球人の夏樹より、同じラージアンで、しかも後継のリリアンの方が大切なのだ。
気持ちはささくれ立ったが、諦めと共に彼女の采配を受け入れた。傷つくだけ無駄なのだ。
――地球に帰してさえくれれば、他はどうでもいい。それまで、彼女とは顔を合わせないようにすればいい。シュナイゼルにも……べったりしないようにしよう。
リリアンを刺激するような真似は、少しでも控えた方がいいだろう。
ただし、審判については話は別だ。
「もう絶対やらない」
お見舞いにやってきたディーヴァに、絶対譲らないという姿勢で噛みつくと、苦笑を浮かべて「判った」とあっさり了承してくれた。彼女も少しは反省しているのかもしれない。
「主審はシュナイゼルにやらせて、副審は他の司令に任せるよ。夏樹は私と一緒に観戦しよ」
――最初からそうすれば、全て丸く収まったんじゃないの……。
文句が喉まで出かかったが、懸命にも夏樹は口にしなかった。
「ねぇ、ディーヴァ。私の面倒、シュナイゼルに任せるって前に言ったけど……、シドに交代できないかな?」
「え? どうして?」
「私がシュナイゼルと一緒にいると、リリアンが嫌な思いをするでしょ」
「夏樹はそれでいいの?」
「いいよ」
「ふぅん……。夏樹が良くても、シュナイゼルはどうかな」
「私、もう痛い思いも、恐い思いもしたくない」
夏樹が冷めた眼差しでディーヴァを見ると、今日はツインテールにしている美少女は、秀でた額をぺちんと叩いた。
「あちゃー。私のせいかな……。ごめんね、夏樹」
「ディーヴァから、シュナイゼルに伝えてくれる?」
ディーヴァは困った顔をしたけれど、夏樹がじっと見つめると「判った」とため息をついて折れた。
三日後。ついにラージアンカップは決勝戦を迎えた。
主審はシュナイゼルが務めている。副審はシドに代わって他の司令が務めており、シドは放送室でディーヴァと共に観戦する夏樹の傍に控えている。
先日ディーヴァに護衛変更を申し出てから、夏樹の傍に立つのはシュナイゼルからシドに変わっていた。
寂しい気持ちはあるが、我慢しようと言い聞かせている。
ラージアンカップのトーナメントが進むにつれて、プレーの精度は上がり、試合は白熱していった。
決勝戦の後半三十分では、ファンペルシーも真っ青なスーパーヘディングシュートが炸裂して、夏樹も思わず席を立って歓声を上げた。
「すごーいっ!」
見たこともないスーパープレイだった。
シュートを決めたラージアンも、堪え切れない喜びを体現するように、フィールドを駆けまわり宙返りを決めた。それを見て、観客席も大いに盛り上がる。
「あはは!」
夏樹も愉快な気分で、笑い声をあげた。ディーヴァもマイク越しに叫んだ。
『今のシュート良かった! 良かったよ!』
ラージアン同士の試合だと、面白いくらいに点取り合戦になる。
今回もロスタイムを迎えて、八対八というサッカーとは思えないような試合運びになっていた。
――やっぱり、決勝戦は面白いなー!
最後は空気を裂くような、超ロングシュートが決まり、十対九で勝負はついた。手に汗を握る、大接戦だった。
ディーヴァは大いに満足し、上位三チーム金銀銅のトロフィーを贈呈した。
最初はどうなることかと思ったけれど……、いざ終わるとなると何だか寂しい。ラージアンに交じって審判を務めたことも、辛いばかりではなかった。
死にかけた、死んで蘇生されたことも、今となっては、ある意味とても貴重な経験だったのかもしれない。二度はご免だが……。
「夏樹、ありがとう」
ディーヴァは夏樹を家に送る途中、戦闘機の中でぽつりと呟いた。
「え?」
「付き合ってくれて、ありがとう……。すごく楽しかった」
「どういたしまして」
「夏樹、大好きだよ」
ディーヴァの眩しい笑顔を見て、夏樹は微笑んだ。
「……私もだよ」
こんな台詞が口から飛び出すことに、自分でもびっくりである。
リリアンの件ではディーヴァに腹を立てていたけれど、この傲慢で可愛いラージアンの女王様を、心の底から憎むことなんて出来やしないのだ。
原因はリリアンだった。
彼女は暴かれる前に、自らそのことを口にした。切るつもりはなかった、間違えて切ってしまったのだと……白々しい嘘をついて。
夏樹も立ち会った謝罪の場で、ディーヴァはリリアンの釈明を受け入れた。
死にかけた……事実、一度死んだ夏樹としては納得しかねたが、事を荒立てたくはなかったので、大人しく引き下がった。
――どうせ、地球に帰るまでの辛抱だし……。
ディーヴァも結局、ペット同然の地球人の夏樹より、同じラージアンで、しかも後継のリリアンの方が大切なのだ。
気持ちはささくれ立ったが、諦めと共に彼女の采配を受け入れた。傷つくだけ無駄なのだ。
――地球に帰してさえくれれば、他はどうでもいい。それまで、彼女とは顔を合わせないようにすればいい。シュナイゼルにも……べったりしないようにしよう。
リリアンを刺激するような真似は、少しでも控えた方がいいだろう。
ただし、審判については話は別だ。
「もう絶対やらない」
お見舞いにやってきたディーヴァに、絶対譲らないという姿勢で噛みつくと、苦笑を浮かべて「判った」とあっさり了承してくれた。彼女も少しは反省しているのかもしれない。
「主審はシュナイゼルにやらせて、副審は他の司令に任せるよ。夏樹は私と一緒に観戦しよ」
――最初からそうすれば、全て丸く収まったんじゃないの……。
文句が喉まで出かかったが、懸命にも夏樹は口にしなかった。
「ねぇ、ディーヴァ。私の面倒、シュナイゼルに任せるって前に言ったけど……、シドに交代できないかな?」
「え? どうして?」
「私がシュナイゼルと一緒にいると、リリアンが嫌な思いをするでしょ」
「夏樹はそれでいいの?」
「いいよ」
「ふぅん……。夏樹が良くても、シュナイゼルはどうかな」
「私、もう痛い思いも、恐い思いもしたくない」
夏樹が冷めた眼差しでディーヴァを見ると、今日はツインテールにしている美少女は、秀でた額をぺちんと叩いた。
「あちゃー。私のせいかな……。ごめんね、夏樹」
「ディーヴァから、シュナイゼルに伝えてくれる?」
ディーヴァは困った顔をしたけれど、夏樹がじっと見つめると「判った」とため息をついて折れた。
三日後。ついにラージアンカップは決勝戦を迎えた。
主審はシュナイゼルが務めている。副審はシドに代わって他の司令が務めており、シドは放送室でディーヴァと共に観戦する夏樹の傍に控えている。
先日ディーヴァに護衛変更を申し出てから、夏樹の傍に立つのはシュナイゼルからシドに変わっていた。
寂しい気持ちはあるが、我慢しようと言い聞かせている。
ラージアンカップのトーナメントが進むにつれて、プレーの精度は上がり、試合は白熱していった。
決勝戦の後半三十分では、ファンペルシーも真っ青なスーパーヘディングシュートが炸裂して、夏樹も思わず席を立って歓声を上げた。
「すごーいっ!」
見たこともないスーパープレイだった。
シュートを決めたラージアンも、堪え切れない喜びを体現するように、フィールドを駆けまわり宙返りを決めた。それを見て、観客席も大いに盛り上がる。
「あはは!」
夏樹も愉快な気分で、笑い声をあげた。ディーヴァもマイク越しに叫んだ。
『今のシュート良かった! 良かったよ!』
ラージアン同士の試合だと、面白いくらいに点取り合戦になる。
今回もロスタイムを迎えて、八対八というサッカーとは思えないような試合運びになっていた。
――やっぱり、決勝戦は面白いなー!
最後は空気を裂くような、超ロングシュートが決まり、十対九で勝負はついた。手に汗を握る、大接戦だった。
ディーヴァは大いに満足し、上位三チーム金銀銅のトロフィーを贈呈した。
最初はどうなることかと思ったけれど……、いざ終わるとなると何だか寂しい。ラージアンに交じって審判を務めたことも、辛いばかりではなかった。
死にかけた、死んで蘇生されたことも、今となっては、ある意味とても貴重な経験だったのかもしれない。二度はご免だが……。
「夏樹、ありがとう」
ディーヴァは夏樹を家に送る途中、戦闘機の中でぽつりと呟いた。
「え?」
「付き合ってくれて、ありがとう……。すごく楽しかった」
「どういたしまして」
「夏樹、大好きだよ」
ディーヴァの眩しい笑顔を見て、夏樹は微笑んだ。
「……私もだよ」
こんな台詞が口から飛び出すことに、自分でもびっくりである。
リリアンの件ではディーヴァに腹を立てていたけれど、この傲慢で可愛いラージアンの女王様を、心の底から憎むことなんて出来やしないのだ。