ラージアンの君とキス
4章:君にハグ&キス - 2 -
家に帰ると、通りの向こうや路地の合間から、ラージアン達がちらほらと顔を覗かせた。
「ナツキ、さようなら」
「ナツキ、ありがとう」
「サッカー、とても楽しかった」
「ナツキ、さようなら……」
彼等まで、気の早いお別れを口にする。そんなに、さようならを連呼しないで欲しい。不安になるではないか……。
「私も、ラージアンカップ楽しかったです! どうもありがとう!」
明るく言って手を振ると、彼等も同じように手を振り返してくれた。シュナイゼルに肩を抱かれて、玄関まで送ってもらうと、離れ難くて無理やり言葉を紡いだ。
「地球、ここからすごく遠いんでしょ。また超速移動するの?」
「ああ」
「じゃあ、コロニーも無重力になるの?」
「いや、平気だ」
「そっか……、じゃあ、家の中で待っていればいい?」
「そうだ」
「到着まで、どれくらい時間かかる?」
「……そうだな。数日はかかるだろうか」
「じゃぁ……、明日も、会えるよね?」
「――ああ」
「なんか、なんか間があった。明日も、会えるんだよね……?」
「会える」
「本当?」
「……夏樹」
静かに名前を呼ばれて、思わず身構えた。びくびくしながら「何?」と問いかけると、シュナイゼルは跪いて夏樹の両手を取った。
「改めて言わせてほしい。夏樹……。私に夏樹を守らせてくれて、ありがとう。ラージアンの司令として、これほど満ち足りたことはない」
「シュナイゼル……、やだな、お別れみたい……」
「夏樹。幸せな日々をありがとう。離れていても、夏樹のことを決して忘れない」
シュナイゼルの言葉は、いよいよ別れの挨拶のようで、激しく感情を揺さぶられた。
「私こそ、いっぱい助けてもらって、守ってくれて、ありがとうっ! シュナイゼルがいなかったら、私……っ……きっと、あっという間に死んでたよ……っ」
言いながら声が潤んでしまった。俯いた瞬間、ポロポロと涙が零れた。
「夏樹……」
――地球に帰りたい。ヨシ兄、祐樹、父さん、母さん……。皆に会いたい……っ……でも! シュナイゼルとも離れたくない! 選べないっ!!
次から次へと、地面を濡らす雫を見つめていると、シュナイゼルに「夏樹」と優しく名前を呼ばれた。
「君が好きだ。離れたくない……」
息が止まるかと思った。
勢いよく顔を上げると、大きな手が濡れた頬を包み込み、目元を拭ってくれた。額の信号は深い青色に輝き、きらきらと金色の星屑が瞬いている。膨れ上がった恋情に押されて、迷いを振り切るように叫んだ。
「私も、シュナイゼルが好き!」
心に思い浮かぶ大切な人達の顔を、一つずつ、黒く塗りつぶすように、無理やり封じこめた。
彼等を――シュナイゼルを選ぶとは、そういうことだ。心から血を流しながら叫んだ。
「シュナイゼルと、一緒にいる……っ」
「ありがとう、夏樹。だけど、好きだからこそ、一緒にはいられない」
シュナイゼルは、涙に濡れた夏樹の頬を優しく拭った。想いを伝えた傍から拒絶されて、夏樹は頬に触れる手に縋りついた。
「どうして!? ディーヴァはいいって言った!」
「皆、夏樹を気に入っている。コロニーに残れば歓迎するだろう。しかし、ここにいても夏樹は幸せになれない。ここに夏樹の同胞はいない。戦いに明け暮れる我々といても、いずれ夏樹は傷つき、苦しむことになるだろう……」
シュナイゼルがナツキを想って、言ってくれているのだということは判る……。けれど、先の話なんて誰にも判らない。
「それでもっ! 私、少なくとも今、ここにいたいって思ってる!」
「後で後悔しても、遅いのだ。これ以上傍にいれば、ディーヴァはきっと夏樹を手放せなくなる。私も阻止してしまうかもしれない。今をおいて他に、帰れる時はない。地球で幸せに暮らすんだ」
「嫌だ、シュナイゼルと一緒にいる! ずるいよ……っ、今更、突き放さないでよっ!!」
地球に帰すというのなら、攫ってきたあの日に帰してほしかった。
夏樹の心をこんなにも捕えた今になって、地球で幸せに……なんて勝手過ぎる。悲しくて、悔しくて、シュナイゼルの硬い胸を何度も叩いた。
「ナツキ、さようなら」
「ナツキ、ありがとう」
「サッカー、とても楽しかった」
「ナツキ、さようなら……」
彼等まで、気の早いお別れを口にする。そんなに、さようならを連呼しないで欲しい。不安になるではないか……。
「私も、ラージアンカップ楽しかったです! どうもありがとう!」
明るく言って手を振ると、彼等も同じように手を振り返してくれた。シュナイゼルに肩を抱かれて、玄関まで送ってもらうと、離れ難くて無理やり言葉を紡いだ。
「地球、ここからすごく遠いんでしょ。また超速移動するの?」
「ああ」
「じゃあ、コロニーも無重力になるの?」
「いや、平気だ」
「そっか……、じゃあ、家の中で待っていればいい?」
「そうだ」
「到着まで、どれくらい時間かかる?」
「……そうだな。数日はかかるだろうか」
「じゃぁ……、明日も、会えるよね?」
「――ああ」
「なんか、なんか間があった。明日も、会えるんだよね……?」
「会える」
「本当?」
「……夏樹」
静かに名前を呼ばれて、思わず身構えた。びくびくしながら「何?」と問いかけると、シュナイゼルは跪いて夏樹の両手を取った。
「改めて言わせてほしい。夏樹……。私に夏樹を守らせてくれて、ありがとう。ラージアンの司令として、これほど満ち足りたことはない」
「シュナイゼル……、やだな、お別れみたい……」
「夏樹。幸せな日々をありがとう。離れていても、夏樹のことを決して忘れない」
シュナイゼルの言葉は、いよいよ別れの挨拶のようで、激しく感情を揺さぶられた。
「私こそ、いっぱい助けてもらって、守ってくれて、ありがとうっ! シュナイゼルがいなかったら、私……っ……きっと、あっという間に死んでたよ……っ」
言いながら声が潤んでしまった。俯いた瞬間、ポロポロと涙が零れた。
「夏樹……」
――地球に帰りたい。ヨシ兄、祐樹、父さん、母さん……。皆に会いたい……っ……でも! シュナイゼルとも離れたくない! 選べないっ!!
次から次へと、地面を濡らす雫を見つめていると、シュナイゼルに「夏樹」と優しく名前を呼ばれた。
「君が好きだ。離れたくない……」
息が止まるかと思った。
勢いよく顔を上げると、大きな手が濡れた頬を包み込み、目元を拭ってくれた。額の信号は深い青色に輝き、きらきらと金色の星屑が瞬いている。膨れ上がった恋情に押されて、迷いを振り切るように叫んだ。
「私も、シュナイゼルが好き!」
心に思い浮かぶ大切な人達の顔を、一つずつ、黒く塗りつぶすように、無理やり封じこめた。
彼等を――シュナイゼルを選ぶとは、そういうことだ。心から血を流しながら叫んだ。
「シュナイゼルと、一緒にいる……っ」
「ありがとう、夏樹。だけど、好きだからこそ、一緒にはいられない」
シュナイゼルは、涙に濡れた夏樹の頬を優しく拭った。想いを伝えた傍から拒絶されて、夏樹は頬に触れる手に縋りついた。
「どうして!? ディーヴァはいいって言った!」
「皆、夏樹を気に入っている。コロニーに残れば歓迎するだろう。しかし、ここにいても夏樹は幸せになれない。ここに夏樹の同胞はいない。戦いに明け暮れる我々といても、いずれ夏樹は傷つき、苦しむことになるだろう……」
シュナイゼルがナツキを想って、言ってくれているのだということは判る……。けれど、先の話なんて誰にも判らない。
「それでもっ! 私、少なくとも今、ここにいたいって思ってる!」
「後で後悔しても、遅いのだ。これ以上傍にいれば、ディーヴァはきっと夏樹を手放せなくなる。私も阻止してしまうかもしれない。今をおいて他に、帰れる時はない。地球で幸せに暮らすんだ」
「嫌だ、シュナイゼルと一緒にいる! ずるいよ……っ、今更、突き放さないでよっ!!」
地球に帰すというのなら、攫ってきたあの日に帰してほしかった。
夏樹の心をこんなにも捕えた今になって、地球で幸せに……なんて勝手過ぎる。悲しくて、悔しくて、シュナイゼルの硬い胸を何度も叩いた。